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TRIZの古典

アルトシューラ「システム進化の法則

この論文は The Official G.Altshuller foundation の許可に基づいて掲載されたものです。(下記のURLはファウンデーションのサイトにリンクされています。書誌詳細はページ末尾

This paper was published with the permission of the Official G.Altshuller foundation: www.altshuller.ru/world/eng/index.asp.

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システム進化の法則

G.S.アルトシューラ
  • 静力学
    • システム各部の完全性の法則
    • システム「エネルギー伝達性」の法則
    • システム各部のリズム一致の法則
  • 運動学
    • システムの理想性レベル向上の法則
    • システム各部の進化不均衡性の法則
    • 上位システムへの移行の法則
  • 動力学
    • マクロレベルからミクロレベルへの移行の法則
    • 物質・場レベル向上の法則

 技術システム進化の諸法則は〈静力学〉〈運動学〉〈動力学〉の3つのグループに分けることができる。

まず〈静力学〉——様々な技術システムの誕生を条件付ける諸法則——から始めることにする。

 あらゆる技術システムは様々な部分がある1つの全体へと統合された結果として生まれる。しかし、部分を統合すればいつでも存在価値のあるシステムが成立するわけではない。システムが存在価値をもつ条件として、必ず満足させなくてはならない法則が少なくとも3つある。

1.システム各部の完全性の法則

技術システムが原理的に成立しうるためにはそのシステムの基本的な各部分が最低限度の能力をもっていることが条件となる。

 どのような技術システムも原動部、伝達部、作業部、制御部という4つの基本部分をもっている必要がある。法則1は、システムが成立するにはこれら4つの部分が存在し、それらがシステムが機能を発揮することに最低限度の適合性をもっていなけらばならないという意味である。システムのある部分がそれ独自としては一定の能力をもっていたとしても、システムの一部となったときには役に立たないことがあり得る。例えば、それ自体では一定の能力をもつ内燃機関も、潜水艦の動力源として水中で使われるときには能力をもたない。

 法則1を次のように説明することもできる。技術システムが存在価値をもつことができるのは、システムに含まれる全ての部分が5点満点の「2」以下ではなく、その採点は各部分が当該のシステムの一部としておこなう仕事に関して評価することとする。もし、たった1つでも「2」以下の部分がある場合、他の全ての部分が「5」に評価される場合でもシステムは生き残ることができない。同様の法則は19世紀の中頃にリービッヒが生物システムについて提唱している(「リービッヒの最小律」)。

 法則1から実践上極めて重要な次の帰結が導かれる。

システムが制御可能であるためには、そのシステムが少なくとも1つは制御可能な部分をもっていなくてはならない。

 「制御可能である」とは、制御する人が必要とするように特性を変化させるということである。

 上の帰結を知っていると、多くの問題の本質をよりよく理解し、得られた解決策をより正しく評価することができる。例として問題37*(アンプルの密閉)をとりあげてみよう。このシステムはどちらも制御することのできない2つの部分から成り立っている。部分1:アンプルは特性を変化させてはいけない(それでは都合が悪い)もの、つまり全く制御不可能なものだというのが与えられた状況である。また、部分2:バーナーは正確に制御することは不可能だというのが問題の条件となっている。従って、この問題の解決はシステムに制御可能な部分を新たに導入することができるかどうかにかかっていることがわかる。(物質・場分析を行なえば、さらに次の点も判明する: 新たな部分とはエネルギー場ではなく物質である——例えば、円筒の塗装に関する問題34のように) さて、どのような物質(気体、液体、固体)を使えば、当たってはこまるところに炎が当たらないようにし、他方でアンプルをしかるべく設置することを妨げないようにできるだろうか? 気体と固体とは候補からはずれ、残るのは液体ということになる。液体といえば——まず水が思い浮かぶ。アンプルを水につけて、水面上には細いガラス管だけが出ているようにしよう(特許No.264 619)。こうすればシステムは制御可能になる。水面の高さを変化させることができる。これによってアンプルの加熱される部分と冷たい部分との境界を調整する(つまり「変える」)ことが可能となる。また、水温も変化させることが可能であり、これによって稼動中のシステムの信頼性を高めることができる。

訳注:訳者が台本として使用した原稿はアルトシューラ・ファウンデーションのサイトに公開されているファイルで、これは『厳密な学としての創造性』の一部を抜粋したものである。*印は同書でアルトシューラが使った問題の番号を参照している。以下同様。

2.システム「エネルギー伝達性」の法則

技術システムが原理的に成立しうるためにはそのシステムのあらゆる部分にエネルギーが伝達されうることが条件となる。

 どのような技術システムも(なんらかの意味で)エネルギーの変換装置である。従って、原動部のエネルギーが伝達部を通って作業部へと伝達されることが不可欠なことは明らかである。

 システムのある部分から別の部分へとエネルギーを伝える方式は物体・物質を使った伝達(例えば、シャフト、ギヤ、レバーなど)、エネルギー場による伝達(例えば、磁場)および物質+場による伝達(例えば、電荷を持った粒子の流れ)がある。多くの発明問題は与えられた条件において最も有効なエネルギー伝達方式を選択することに帰するといえる。回転する遠心装置の中の物体を過熱する問題53*はこのような問題のひとつである。エネルギーは遠心装置の外に存在する。エネルギーの「ユーザー」も存在するわけだが、それは遠心装置の中に位置している。この問題の核心は「エネルギーの橋渡し」である。この意味での「橋」には、単純な「橋」と複合的な「橋」とがある。システムの1つの部分から他の部分にエネルギーが伝達される際にエネルギーの種類が変化する場合には、複合的な「橋」と名づける。発明問題ではほとんどの場合で複合的な「橋」が必要となる。遠心装置内の物質の加熱に関する問題53では、遠心装置の回転を妨げないという観点からは電磁場を使うのが有利だが、遠心装置内で求められるのは熱エネルギーである。このような場合には、システムのある部分からエネルギーが出てゆく、あるいは、他の部分へとエネルギーが入ってゆくところでエネルギーをコントロールできるようにしてくれる特殊な効果や現象が特に大きな意味を持ってくる。問題53では遠心装置が磁場の中に置かれていて、装置内には例えば強磁性体で作られた円盤が入っているようにすれば加熱は可能になる。しかし、この問題は遠心装置内の物質を単に加熱することだけでなく、温度を約2500℃に維持することを求めている。どんなエネルギーを選択するにしても円盤の温度を一定にできなくてはならない。「過剰な」エネルギー場から2500℃にまでの加熱に十分なエネルギーの供給を受けた後に、円盤の物質が(キュリー点を越えることで)エネルギー供給を「自動OFF」することにすればこれが可能となる。温度が低下すると逆に円盤のスイッチが「自動ON」する。

 法則2から導き出される次の帰結は重要な意味を持っている。

技術システムのある部分が制御可能であるためには、その部分とシステムの制御部との間のエネルギー伝達性を確保することが不可欠である。

 測定と検出に関する問題の課題は情報の伝達だが、これも多くの場合はエネルギー——ただし弱いエネルギー——の伝達の問題と考えることができる。円筒の内側を加工している研磨ディスクの直径を測定する問題8*を例として取り上げよう。この問題は、情報の伝達でなく、エネルギーの伝達の問題だと考えると解決が容易になる。エネルギーの伝達が問題とすれば、まず次の2つの問に答える必要がある: (1) ディスクに届けるのに、どの形態のエネルギーが最も容易だろうか? (2) 円筒の壁を通り抜けて、あるいは、ディスクの回転軸を通じて取り出すのに、どの形態のエネルギーが最も容易だろうか? こうなると回答は明らかといえる。電気の流れとしてエネルギーを使うのが最も容易である。これはまだ、最終的な解決策とはいえないが、正しい解決策へ向けて一歩踏み出したとはいえる。

3.システム各部のリズム一致の法則

技術システムが原理的に成立しうるためにはそのシステムのあらゆる部分の間のリズム(周波数、周期)が一致していることが条件となる。

 これに関する例は第1章に示した。

〈運動学〉のグループには、技術システムの進化を条件付けている具体的な技術的あるいは物理的要因にかかわらず、システムの進化の有り様を規定する法則が属している。

4.システムの理想性レベル向上の法則

全てのシステムの進化は理想性のレベルが向上する方向に進む。

 理想的なシステムとは、そのシステムが仕事をこなす能力を一切低下させずに、重量、体積、面積が限りなくゼロに近づいてゆくようなシステムである。言い換えれば、理想的なシステムとは、システムが存在せず、システムの機能だけが保たれ実行されるシステムをさす。

 「理想的な技術システム」という概念は当たり前のことをいっているのだが、現実のシステムをみると益々巨大になり重量が増してゆくという逆説が存在する。飛行機、タンカー、自動車などの大きさはどんどん大きくなってゆく。この逆説が存在するのは、システムが改良されることで生じる余裕がシステムのサイズの拡大と、この方が主なのだが、性能の向上へと向けられるためである。初期の自動車の速度は15–20km/hだった。もしこの速度がそのままだったとすれば、自動車はそれまでの堅牢さと快適さとを保ったままで、徐々に軽くて小さいものになっていったことだろう。しかし実際には自動車の改良(より堅牢な素材、エンジン性能の向上など)はすべて自動車の速度の向上と、その速度を可能にする条件(強力なブレーキシステム、頑丈なボディー、強化されたサスペンション)へと向けられた。自動車の理想性が向上していることをが一目瞭然に見えるようにするには、現在の自動車を同じ速度、同じ走行距離を持っていた過去のレコードホルダー的自動車と比較する必要がある。

 このように、技術システムの理想性向上のプロセスは表面に現われる第2義的プロセス(速度、出力、トン数などの増加)によって隠されてしまっている。しかし、発明問題を解決する際に求められるのは、まさに理想性の向上に着目することである。理想性の概念は問題の設定の仕方や、得られた解決策の優劣を評価する際に信頼できる基準となる。

5.システム各部の進化不均衡性の法則

システムの各部分の進化は不均衡に進む。システムが複雑であればあるほど各部分の進化の不均衡性は大きい。

 システムの各部分の進化不均衡性は技術的矛盾、物理的矛盾と、その結果としての発明問題が発生する原因である。一例を挙げれば、貨物船のトン数と、エンジンの出力が急速に増大した一方で、船舶を停止させる方法は変らなかった。その結果として、例えば排水量20万トンという巨大なタンカーをどうすれば停止させることができるかというような問題が発生した。今日に至っても、この問題に対する効果的な解決策は発見されていない。結果として、巨大な船舶はブレーキをかけ始めてから完全に止まるまでに何マイルも進んでしまうという状態である。

6.上位システムへの移行の法則

進化の余地がなくなったシステムは、上位システムの中に1つの部分として含まれるようになる。それ以降の進化は上位システムのレベルで進むことになる。

 この法則についてはすでに触れた。

〈動力学〉に移ろう。

 ここには、現代社会の具体的な技術的、物理的要因の影響下で進む、現代の技術システムの進化を反映する法則が含まれる。〈静力学〉〈運動学〉は汎用的な法則であり、あらゆる時代を通じて適合性をもち、単に技術システムだけでなくあらゆるシステム(生物システムなど)一般に当てはめることができる。他方、〈動力学〉はまさに我々の時代の技術システムの進化の主要な傾向を反映するものである。

7.マクロレベルからミクロレベルへの移行の法則

システムの作業部の進化は始めはマクロレベルで、その後ミクロレベルで進行する。

 現代の技術システムの大半で作業部は「金物」である。例えば、飛行機のプロペラ、自動車のホイール、旋盤の工具、エキスカベータのバケットなどである。こうした作業部の進化はマクロレベルでも可能である。「金物」であることは変わらなくても改良はされてゆく。しかし、マクロレベルでこれ以上進化させることは不可能という時が訪れることは避けられない。こうなると、システムの機能を変えずに、機能を得る原理が変化するようになる。作業部ではミクロレベルの作用が使われるようになる。そのときには、「金物」に替わって分子、原子、イオン、電子などが仕事をするようになる。

 マクロレベルからミクロレベルへの移行は現代の技術システムの進化の(「最も」というわけではないにしても)主要な傾向の1つである。従って、発明問題解決法を学ぶ際には〈マクロ−ミクロ〉の移行とこれを実現する物理的効果とを検討することに特に注意する必要がある。

8.物質・場レベル向上の法則

技術システムの進化は物質・場レベルが高度化する方向に進む。

 この法則は、物質・場が成立していないシステムは物質・場を構成するように、また、すでに物質・場を持っているシステムにおいては、機械的なエネルギー場から電磁的エネルギー場——物質の分散度のレベル進行、諸要素間の連結とシステムの応答性の向上——へと移行する方向に進化が進むということを意味している。

 これまでに取り上げた問題解決事例の多くがこの法則の中身を示している。

以上
書誌
G.S.アルトシューラ「システム進化の法則」
『厳密な学としての創造性』
モスクワ:ソビエトラジオ出版、1979年、pp.122-127
(Альтшуллер Г.С. Законы развития систем
// Творчестбо как точная наука.
— М.: Советское радио, 1979. — с.122-127.)

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