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TRIZの古典

アルトシューラ
「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」(76の標準解)(1/3)

このページではアルトシューラによる1988年の論文「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」を翻訳し掲載します。「標準解」と通称されているものですが、アルトシューラが使ったロシア語の表現にあわせた表題にしました。現在のところクラス5までを掲載しています。残りの部分は翻訳が完了し次第、追加します。

この論文は The Official G.Altshuller foundation の許可に基づいて掲載されたものです。(下記のURLはファウンデーションのサイトにリンクされています。書誌詳細はページ末尾

This paper was published with the permission of the Official G.Altshuller foundation: www.altshuller.ru/world/eng/index.asp.

この論文の著作権は The Official G.Altshuller foundation にあります。

日本語の翻訳の著作権はサイト管理者にあります。

無断転載は禁止いたします。

小さな巨大世界:発明問題解決の標準
(76の標準)

 TRIZの開発が始まった当初から、なによりもまず技術的矛盾を除去する模範的な方法集を含めた、しっかりした情報フォンドがなくてはならないことは明らかでした。これを作る作業は長年続き、4万件以上の発明の分析が行われ40(小分類を含めると100以上)の模範的方法が発見されました。

 技術的矛盾の深みには物理的矛盾が存在します。物理的矛盾 (PC) はその本質としてある1つのモノに対して二重の要求を突きつけます。動くように・動かぬように、熱いように・冷たいように、などなどです。ですから、PCを取り除く方法の研究によって、模範的方法は2つを一組で適用しなくてはならない、その方が単独で使う場合より効果的だという結論に至ったのはおどろくべきことではありませんでした。こうして、TRIZの情報フォンドに2つ一組の方法セット(分割・組み合わせ、等々)が加わりました。

 さらに、複雑な課題の解決には、複数の普通の方法(ここには上の方法セットも含まれます)と物理的効果との組み合わせが関わってくるのが普通であることが明らかになりました。結果として、方法と物理的効果との組み合わせの中で特に有効なものが抽出されることになりました。こうしたものが、発明問題解決の標準のまだ数の少い最初のグループとなったのです。

 したがって、我々のいう「標準」とは技術システムの進化の法則から直接帰結する技術システムの合成・改造のルールを意味するのです。

 始めのうち標準は体系として整理されず、発見された都度情報フォンドに含められてゆきました。その数は、5、9、11、18…… と急速に増えました。1979年には28個の標準を含む初めての体系がまとめられました。この体系化は物質場分析の観点から行われ、標準の中に次の基本的なクラス{類}が定められました:

  1. システムの改造(とシステム内部の改造)についての標準
  2. システム(とシステム内部の)検出と測定についての標準
  3. 標準の適用についての標準

 こうして、1984年までには殆どのTRIZ学校で54、59あるいは69の標準からなる体系が使われるようになりました。実際に用いた結果、標準は極めて有用なTRIZのツールであることが明らかになりました。さらに課題の大半は標準を用いて解決し、ARIZは標準的でない課題の分析と新しい標準の形成に役立つ情報の収集を主たる目的として使用するべきである、という展望が浮かび上がってきました。他方では、ARIZと異なる点として、標準の体系をさらに改良すれば技術システムの進化を予測するツールに変化しうるという期待が生まれました。

 こうして1983–1986年に技術システム進化の法則について集中的な研究が行われました。現在の理解ではシステムの進化は次のラインに沿って展開すると考えられます:

不完全な物質場システム – 完全な物質場 – 複合物質場 – 強化物質場 – 複合的強化物質場。

この連鎖の中のどのステップからでも〈上向き〉つまり次のシステム階層への移行、あるいは、〈下向き〉つまりより低いシステム階層への移行がありえます。こうした一般的な図式が現実となるメカニズムは一部既に発見されています。バイ・システム、ポリ・システムへの移行、展開(複雑化)の作用、ミクロレベルへの移行などです。技術システムの進化の法則について新しい知識が得られたことによって標準の体系の構造を修正し、新しい有効な標準を追加することできました。これらの新しい点については1984–1986年のセミナーで検証が行われました。その結果、76の標準を含む新しい体系に移行しても問題がないことが明らかになりました。

新しい体系が従来のものと異なる点は次の通りです:

  1. 標準の分類は技術システムの進化の一般的図式に対応するようになりました:単純な物質場 – 複合物質場 – 強化物質場 – 複合的強化物質場 – 上位システム・下位システムへの移行。
  2. 一連の新しい標準の導入。これらの幾つかは技術システムの進化の法則についての知識が深まったことから、標準の体系そのものの論理に示唆される(〈抜けている〉場所を埋める)ことによって明らかにされました。
  3. 標準を説明する模範的な「例」の数が著しく増えました。例は標準が一般的な表現で示唆している内容が現実でなにを意味するのか、重要な細部やニュアンスが理解できるように補っています。同じ目的で標準のテキストの中に15の学習用の課題を挿入しました。

 標準は技術的矛盾、物理的矛盾に対する戦闘機です。標準の目的は矛盾を克服すること、極端な場合には、矛盾を迂回することです。矛盾に打ち勝つ、両立し難いものを両立させる、不可能を実現する、そこにこそ標準の意味があるのです。

 産業の革新に取り組んでいる人が76の標準システムと出会うことによって現実の問題を創造的に解決する強力なツールを得ることになると信じたいと思います。

目次

  1. クラス1 物質場システムの構築および分解
  2. クラス2 物質場システムの発展
  3. クラス3 上位システムとミクロレベルへの移行
  4. クラス4 検出と測定に関する標準
  5. クラス5 標準の適用に関する標準
  6. 標準の適用に関する演習課題
  7. 標準体系の使い方

クラス1 物質場システムの構築および分解

1.1. 物質場の構築

 このサブクラスの趣旨は標準1.1.1にはっきりと現れています。使い物になるシステムを作るには、最も単純な場合でも、物質場が存在しない状態から{TRIZで言う意味の}物質場が形成されている状態へと移行することが不可欠だということです。{物質場を作るための}物質やエネルギー作用を導入することに様々な制約があるために、物質場を作り上げるのに困難が伴うことは稀ではありません。標準1.1.2から1.1.8はそのような場合の模範的な迂回策を示しています。

1.1.1. 物質場の構築

 あるモノがあって、それを思うように変化させることが難しく、一方状況として物質やエネルギー作用を導入することに制約が無い場合には、{物質場の必須構成要素の中で}欠けている要素を導入して物質場を構築することによって課題を解決することができます。

訳注:図について

この図は「物質場分析」というTRIZ流儀の方法で描かれています。物質場分析は、ある物質が、他のある物質に対して、何らかのエネルギー作用によって影響を与えている状況を、あらゆる物理的作用の一般的原単位として捉え、その関係のあり方を表現しているものです。

以下に、その関係のあり方の類型が次々と登場します。そうした、類型に対応させて、TRIZの〈標準〉——つまり、製品や技術の革新を実現する上で克服する必要のある課題の解決に有効なアプローチ——を分類しているわけです。

図の摘要

  • П:  エネルギー作用(例えば、機械的な力){ローマ字標記では通常〈F〉とします}
  • В1:  作用を受ける物質(例えば、ワークピース){ローマ字標記では通常〈S1〉とします}
  • В2:  作用を与える物質(例えば、工具){ローマ字標記では通常〈S2〉とします}
  • 矢印:直接的な影響の方向。なお矢印が直線で描かれていることは影響が有益で有効だということを意味します。太い矢印は、状態の変化を意味します。
  • {なお、「П」は「ペー」、「В」は「ヴェー」と発音します}

例:

発明者証 No.283885
粉上の物質を脱気{空気を除去}する方法。
特異点:遠心力をかけて、脱気のプロセスを促進する。

2つの物質——粉と気体——があります。2つの物体自体の間ではお互いに影響し合うことはありません。エネルギー作用を導入することによって物質場が形成されます。

別の例

ノコギリで切った立ち木と重力だけでは物質場システムが形成されません。2つ目の物質が欠けています。ですから、{重力という}エネルギー作用が立ち木を加工することはありません。発明者証 No.461722 は立ち木が自重で倒れるところをカッターで受け止めて枝を切り落とすアイデアです

訳注:

この文書では例として多数の発明者証の内容が紹介されていますが、下記のウェブサイト(旧ソ連特許データベースサイト)で原文が確認できます;

База патентов СССР

同ウェブサイトでは、上部の灰色の欄に発明者証の番号を入力し、右の 「Поиск(検索)」ボタンを押すと、関連ページが一覧表示されるようになっています。

ただし、当ページで紹介している発明者証番号を入力しても、当該の書類を同ウェブサイトで見つけられない場合もあります。上に紹介された2つの例のうち No.283885 は残念ながら見つからないようです。No.461722 の方は、上記の方法で原文の内容を閲覧することができます。

 飛散しやすい物質や液体を規定の量ずつ使用するには、それを取り扱いやすい素材(例えば、紙)を挿んで同量ずつ何層にも重ねておかなくてはなりません。こうしてサンドイッチ状にすると一方の物質が他方の物質の中に入りこむことが起きてしまいます。2つを分けるためには、エネルギー作用(例えば、熱や機械的な力)を導入して物質場を形成させる必要があります。

発明者証 No.305363
例えば、内燃機関の加速摩耗試験の際の研磨剤の定量投入など、飛散しやすい物質を単位体積あたりの重量を基準として間断なく連続して計量する方法。
特異点:投入する研磨剤の量の精度を高めるために、予め研磨剤を燃えやすい柔軟なテープの表面に均一な層状に着けておいて、テープを規定の速度で燃焼位置に送り込んで燃焼させ、残った研磨剤を試験対象に投入する。

発明者証 No.421327 でも微量の計量を同じ考え方で行います。生化学的試料の溶液を紙のシートにしみ込ませ、必要な微量の試料は、その量に相当する面積の紙を切り取ることで得ることができます。

課題1:

熱間圧延工程では金属とローラーとが接触する箇所に潤滑液を供給し続ける必要があります。潤滑液を供給する方法は様々あります。重力で滴らせて様々なタイプの「ブラシ」や「筆」で均等にする、圧力をかけてストリーム状に流し込むなどです。どれもうまくありません。潤滑液を必要な箇所に十分な量で均等に散布することができません。大部分が飛び散って周囲の空気を汚染させてしまいます。潤滑液の供給モードは10種類必要です。既知の方法ではそのような調整をすることができません。

必要な箇所に必要な量の潤滑剤を供給できて、しかも潤滑剤の無駄が無く、また、設備が目立って複雑になるようなことの無い潤滑法が必要です。

標準1.1.1に沿った、課題1に対する解決策:

熱間圧延による金属変形が生じる箇所に潤滑液を供給する方法。
特異点:周囲の環境を汚染させず、潤滑液の消費を減少させるために潤滑液を媒体に含ませて、その媒体を金属変形の個所に供給する。媒体の素材は熱間圧延の熱によって、例えば燃焼や揮発して、消滅するもの(例えば、紙テープ)とする。

 繊細なもの、壊れやすいもの、変形しやすいものの取り扱いに関連する課題を解決する際には物質場を形成する必要が生じる場合がしばしばあります。操作を加えている間だけ、そうしたものを硬くしたり、頑丈にしたりしてくれるようななんらかの物質と組み合わせておいて、その後は組み合わせた物質を溶かす、揮発させるなどして取り除きます。

発明者証 No.182661
中間に焼きなましを入れながら引抜き加工を繰り返してニクロムで肉厚の薄いパイプを作る方法。
特異点:肉厚 0.01mm、公差 0.002-0.003mm のパイプを作り、歩留まりを向上させるために仕上げの引抜き加工はニクロムをアルミニウムの芯にかぶせて行い、加工後アルカリを使ってアルミニウムを溶かして取り除く。

発明者証 No.235979
コアにゴムをかぶせて加硫することによってゴム製のボール状スペーサを製造する方法。
特異点:ゴムボールを必要なサイズにするコアは石灰岩の粉に水を混ぜて固め、それを乾燥して作る。このコアにゴムをかぶせて加硫した後、ゴムに針で穴をあけそこから液体を注入して石灰を溶かしてコアを壊す。

1.1.2. 内部付加物質場への移行

 物質場があって、それを思うように変化させることが難しく、一方状況として物質やエネルギー作用を導入することに制約が無い場合には、取り扱いやすくするあるいは物質場に必要な特性を与えるような付加物をВ1あるいは物質В2に付け加えて(恒常的にあるいは一時的に)内部付加物質場に移行することによって課題を解決することができます。

 図でВ1は作用を受けるもの、В2は作用を与えるもの、В3は付加物を指します。カッコは物質場システムの中に付加物を加えることを意味します。付加物を当初の物質場の外側に付け加える場合はカッコなしとします。{また、点線の矢印は不十分な、あるいは無効な影響を意味します。}

発明者証 No.265068
粘度の高い液体の関与する抽出操作の方法。予め液体を気化させておく。

発明者証 No.1044879
毒性や爆発性物質用のバルブ。バルブの中には強磁性粒子を含む低融点のハンダを詰める(その外側に電磁石を設置しておく)。

解説:
課題の状況に2つの物質が含まれていて、どちらにもエネルギー作用によって影響を与えにくい場合が少なくありません。物質場は成立している(3つの要素が全て揃っている)かのようでもあり、成立していない(うまく組み合わさらない)ようでもあります。このような状況を解消する最も簡単な方法は(2つの物質のどちらかに)システムの内側で何かを付加するか、(どちらかに)システムの外側から何かを付加することです。このような物質場を〈付加物質場〉と名付けます(標準1.1.2および1.1.3)。

 時には、課題をどのように設定するかによって、同一の解決策を物質場の構築とみなすことも、付加物質場への移行とみなすこともできます。例えば「小さな液滴を視覚的に検出するにはどうするか」という課題に対する解決策は、物質場の構築「事前に液体 {В1} に蛍光物質 {В2} を混入させておいて、検出したい箇所に紫外線 {П} を当てる(発明者証 No.277805)」とすることができます。これを異なる課題設定にして「冷蔵装置内の緩みの検出」とすると、その場合、物質は「緩み」{В1} とそこから漏れる「液体」{В2} となります。その場合は蛍光物質は物質「液体」に対するシステム内部の付加物 {В3} という位置づけになります。

1.1.3. 外部付加物質場への移行

 物質場があって、それを思うように変化させることが難しく、一方状況として既存の物質В1あるいは物質В2に対して付加物を導入することに制約がある場合には、取り扱いやすくするあるいは物質場に必要な特性を与えるような付加物В3を、В1あるいは物質В2にシステムの外側で付け加えることによって(恒常的にあるいは一時的に)外部付加物質場に移行することによって課題を解決することができます。


冷蔵装置内の緩みを検出する課題で、液体に蛍光物質を混入することに制約がある状況だと仮定します。その場合は冷蔵装置の外側表面に検出物質を塗っておくという案が可能です(発明者証 No.311109)。この場合は、外部付加物質場がつくられたことになります。

1.1.4. 外部環境を利用する物質場への移行

 物質場があって、それを思うように変化させることが難しく、一方状況として物質をシステムの内部に導入したりあるいは外部に取り付けたりすることに制約がある場合には、{システムの}周囲の環境にある物質を導入物質として利用することによって、物質場を手直しして課題を解決することができます。

発明者証 No.175835
発明者証 No.163914 による荷を積んだ船倉部分を横に回転させて自分で荷下ろし可能な{砂利などの運搬用}バージ。
特異点:バージで荷下ろした後にどんな角度からでも確実にもとの位置に復元できるように、キールの中をバラストタンクにし、しかも、タンクの壁に隙間が空いていて{水や空気が}いつでも外部と行き来できるようにしてある。

{復元のためには}重いキールをもっていることが必要ですが{運用の効率を考えれば}重いキールをもっていることは許されません。
解決策:キールを水で作る。水中では水のキールに{重量と浮力とが相殺するので、船の自重に加わる}重量はありません。しかし、船倉が回転してキールが空中に浮き上がると重量が生じます。{キール内のタンクに隙間があっても}水が流れ出す時間がないので、キールの重量によってバージの船倉は復元します。

 動く物体の重量を変えたい、しかしそれが許されないという場合には、その物体に翼の形状を与えて、移動方向に対する翼の傾きを変化させることによって上向き、あるいは下向きの力を加えることができます。

発明者証 No.358689
ヒンジが2つあるアームとウエイトからなる遠心角速度センサー。
特異点:サイズと重量を小さくするためにウエイトを翼形状にし、回転時に浮力が加わるようにしてある。

発明者証 No.167784
風力タービンの垂直軸に取り付ける遠心ブレーキ型のスピードコントローラ。
特異点:負荷が急激に増加した際にあまり回転しないで回転数を維持するために空気力学的な制動が生じるようにコントローラの形状をシャベルの形にしてある。

発明者証 No.526399
シャフトと偏芯したおもりとシャフトから規定の距離におもりを取り付ける機構とからなるアンバランスマス振動発生装置。
特異点:不均衡に働く力を大きくするためにおもりの断面形状が翼の形になっている。

1.1.5. 外部環境プラスアルファを利用する物質場への移行

 標準1.1.4に従って物質場を構築するために必要な物質が{システムの}周囲の環境に存在しない場合には、環境を変える、環境を分解する、あるいは環境に追加物を導入することによってそうした物質を得ることができます。

発明者証 No.796500
すべり軸受には潤滑剤(この場合、周囲の環境とみなされます)が使われます。潤滑剤の緩衝効果を高めるために潤滑剤を電気分解して内部にガスを発生させます。

1.1.6. 物質への最小作用

 (規定の、あるいは最適な)最小水準の作用が必要で、かつ、課題の状況においてそれを実現することが難しいあるいは不可能な場合には、最大水準で作用させ、過剰な部分を取り除くようにします。その際、過剰なのが作用の場合は物質を用いて取り除き、過剰なのが物質の場合はエネルギー作用を用いて取り除きます。過剰な影響は二重の矢印で表現します。

発明者証 No.242714
製品に塗料を薄く塗る目的で、始め製品を塗料タンクに浸けて過剰な塗料が着くようにします。その後取り出した製品を回転させて、遠心力を使って余分な塗料を取り除きます。

発明者証 No.907503
現像プロセスでトナー(二成分の現像剤を含む)が消費されるのに応じて適量を補充する方法。
特異点:現像品質を確保するためにトナーはコピー一枚での最大必要量を上回って補充し、現像と並行して過剰な分を取り除く。

1.1.7. 物質への最大作用

 物質に対して最大水準の作用を与えることが必要で、かつ、何らかの理由でそれを実現することが許されない場合には、最大水準の作用そのものは維持し、しかし作用が向かう先を本来対象とする物質と関係のある別の物質とします。

発明者証 No.120909
プレストレストコンクリートを作る際にはスチールのロッドを予め引き延ばさなくてはなりません。そのためにはロッドを加熱します。熱膨張によってロッドが伸びた状態で固定します。しかしロッドでなくスチールワーヤーを用いる場合、{熱膨張によって必要な分のばすためには}700℃まで加熱する必要がありますが、400℃までしか加熱できません(加熱しすぎるとワイヤーの特性が変化してしまいます)。そこで、耐熱性のロッドを繰り返して使用することにします。ロッドを加熱して熱膨張で伸ばします。その段階で、ロッドの端にスチールワイヤー結びつけ{、ロッドとワイヤーの反対側の端を動かないものに固定し}ます。ロッドが冷えるに従って短くなり、冷たいままのワイヤーを引き延ばします。

1.1.8. 選択的最大作用

 選択的に最大作用(他の箇所での作用は小さいままで、ある箇所で大きな作用)が必要な場合には、{全体としての}エネルギー作用は最大レベルを確保しなくてはなりません。

1.1.8.1. 選択的最大作用: 最大レベルのエネルギー作用

 第一のケース。エネルギー作用を必要最低限にしたい箇所に保護物質を用います。

1.1.8.2. 選択的最大作用: 最小レベルのエネルギー作用

 第二のケース。最大限の作用を加えたい箇所に局所的にエネルギー作用を発生させることの出来る物質をも用います。例えば、熱作用を得るにはテルミット、機械的作用を得るには爆薬。

発明者証 No.264619
薬品の入ったアンプルの口を密封するには、バーナーの火力を一杯にしてアンプルに吹き付ける。その際、過剰な炎の影響をさけるためにアンプルの本体は(先端部分だけが突出するように)水の中に浸ける。

発明者証 No. 743810
2つの部品の溶接部の隙間に発熱性混合物を入れて、溶接時にその箇所だけ熱を出すようにする。

課題2:

金属製の足が付き細い被膜電線がつながったポリスチレン製の巻き芯を作ります。足に電線をハンダづけする際には電線を容器に入った280℃の溶けたハンダに浸けて行いますが、その際には絶縁被膜をはがして中の線をむき出しにしなくてはなりません。作業効率を上げるためにハンダの温度を380℃まで上げる案があります。この温度だと絶縁被膜は燃えてしまい中の線にハンダが着きます。他方で、この温度では巻き芯の足が過剰に熱されるためポリスチレンが柔らかくなり、足も歪んでしまいます。これは受け入れられません。どうしたら良いでしょうか。

標準1.1.8.2に沿った課題2に対する解決策:

金属製の足と被膜電線の端とを予め350-400℃の熱を出す発熱性混合物に浸してから、従来と同じように280℃のハンダに浸してハンダづけします。こうすることによって、絶縁被膜は燃えてしまい、他方で、ポリスチレンの巻き芯が柔らかくなってしまうことはありません。

1.2. 物質場の分解

 このサブクラスには物質場を分解して、その中にある有害な関係を取り除くあるいは無害にする標準が含まれています。このサブクラスの中で最も有効な考え方は既存の物質場資源を使って必要な要素を活用することです。特に重要なのは標準1.2.2です。この標準はシステムの中に既に存在する物質が変化して新しい物質の機能を果たことを示唆します。

1.2.1. 外部物質の導入による有害な関係の排除

 物質場の中の2つの物質の間に相互に対立する——有益と有害の——作用が起きている(そして、2つの物質同士が直接接していることが不可欠ではない)場合は、2つの物質の間に外部から無料のあるいは極めて安価な第3の物質を挿入することによって課題を解決します。


(波形の矢印は取り除くべき{有害な}影響を意味しています。)

発明者証 No.937726
掘削した油井の穴の中で爆発を起こすことは、ガスの圧力によって油井の壁面がしっかりする有益な機能をもっているが、他方では壁面に亀裂を生じさせる有害な影響も与える。線状の爆薬の回りに粘土を巻き付けて油井の中で爆発させると壁面に圧力をかけることができ、かつ、亀裂を生じさせることもない。

発明者証 No.724242
スタッドパイプ(表面に鋲を付けて表面積を大きくしたパイプ)を金型の上で冷間曲げ加工する方法。
特異点:パイプの直径の3倍以内の半径で曲げ加工する際に加工品質を向上させるために、スタッドの部分をポリウレタンなど弾性材料で埋めてから曲げを行う。

発明者証 No.460148
製品の加工工程で塑性変形などを受ける表面の層を取り除かずに洗浄液の中で(超音波などで)洗浄する方法。
特異点:洗浄効率を上げるため、加工工程の前にワークピースの表面を加工工程では取れにくく洗浄液の中では取れやすい物質で覆っておく。

発明者証 No.880889
複雑な表面形状の製品を溶けたポリマーに浸けて梱包保全する方法。
特異点:後に保護層を取り除く作業を容易にするために、ポリマーに浸ける前に揮発性物質を含む他の物質の層で予め覆っておく。

1.2.2. 既存物質の変形による有害な関係の排除

 物質場の中の2つの物質の間に相互に対立する——有益と有害の——作用が起きている、そして、2つの物質同士が直接接していることが不可欠ではないが、外部の物質を導入することが禁じられているあるいは不適当な場合は、2つの物質の間にそれを変化させた第3の物質を挿入することによって課題を解決します。

{1.2.1のように}物質В3はすぐ使える状態で外部から導入する場合も、{1.2.2のように}既存の物質から(П1またはП2の作用によって)得る場合もあります。В3はまた空洞や泡のようなボイドのこともあり得ます。

発明者証 No.412062
水中翼などの流体機械の表面を保護層で覆うことによってキャビテーションによる壊食(エロージョン)を防止する方法。
特異点:保護性能を高め、同時に水の抗力を低下させるために流体機械に接する水を氷結させて表面を氷の殻で覆って保護層とする。氷の殻が剥がれて下の表面がキャビテーションによる壊食を受けないように、表面の冷却は間断なく行い殻の破壊された部分は直ちに回復して厚さが規定の幅の範囲内に維持されるようにする。

発明者証 No.783154
パイプラインにパルプを投入しそれを動かすパルプ搬送用パイプライン装置。
特異点:パイプの内面の摩耗を減らすためにパイプの外側を冷却して内側表面に凍結したパルプの層が形成されるようにする。

課題3:

電気分解によって水溶液から金属を析出させる際に、析出物(製品)をカソード(ツール)から剥がす作業が頭痛の種です。この作業は面倒な作業で人力で行われています(作業が「引き剥がし」と呼ばれていることが作業の困難を物語っています)。どうすればよいでしょうか。

標準1.2.2に沿った課題3に対する解決策:

析出する金属とカソードと中間に簡単に作ることができ、導電性があり、簡単に壊すことの出来る中間層がなくてはなりません。発明者証 No. 553309 によれば、こうした中間層は電気分解を始める際に許容最大電流で電気分解を行うと形成されるもろくスカスカの析出金属層でカソードを覆うことによって得ることができます。

1.2.3. 有害作用の肩代わり

 エネルギー作用による物質に対する有害な影響を排除する必要がある場合は、有害な影響を自分の方へ引きつける第2の要素を導入することによって課題を解決できるかもしれません。

発明者証 No.152492
地中に埋めたケーブルを地面が凍結して亀裂が入ることによる損傷から守るために、ケーブルに沿って予め細い溝(「亀裂」)を掘っておく。

凍結による破裂からパイプを守るために、パイプの内側に柔軟性のあるプラスチック製のインサート(ホース)を入れておきます。水が凍ると膨張して柔らかいインサートを圧迫しますがパイプは無事です。

1.2.4. エネルギー作用による有害作用への対抗

 物質場の内部の2つの物質の間に相互に対立する——有益と有害の——作用が起きている、そして、2つの物質同士が直接接していることが——標準1.2.1および1.2.2と異なり——必要な場合は、重層的物質場に移行することによって課題を解決します。その際、有益な作用は既存のエネルギー作用П1に担わせ、有害な作用の中和(あるいは、有害な作用を第2の有益作用に変化)させる役割は新たなエネルギー作用П2に担わせます。

発明者証 No.755247
花の受粉を促進するために風を送って花粉を飛ばします。しかし、風が吹くと花が閉じてしまいます。そこで、花弁を帯電させて閉じないようにするアイデアが提案されました。

発明者証 No.589482
生産装置が発生する振動をフィードバックして、装置の土台に同じ大きさで逆向きの振動を発生させる自動装置。

1.2.5. 磁気による関係の「スイッチオフ」

 磁気作用を伴う物質場を分解する必要がある場合は、物質の強磁性特性を「スイッチオフ」する物理的効果を利用することによって課題を解決できるかもしれません。例えば、衝撃やキュリー点以上に加熱することによる消磁効果です。


{図のПМАГ(ペー・マグ)は磁気作用を、ПТ(ペー・テー)は温度(熱)による作用を意味します。}

発明者証 No.397289
強磁性粉末の接点溶接法。強磁性粉末を溶接箇所に投入する前にキュリー点以上に加熱しておく。これによって粉末が溶接電流によって生じる磁場で溶接個所から動かされることを避けられる。

発明者証 No.312746
回転磁場によって動きを生じさせて強磁性体で製品を加工する内面研磨法。
特異点:強磁性の製品を加工する際には研磨効果を高めるために製品をキュリー点あるいはそれ以上の温度に加熱する。

クラス2 物質場システムの発展

2.1. 複合物質場への移行

 物質場の有効性を向上させたい場合は、なによりもまず単純な物質場を複合物質場——連鎖物質場および重層物質場——へと移行させることを検討します。システムが複雑化する程度は比較的小さく、他方で、システムに、新しい特性が加わり、既存の特性が、第一に制御性が、改良されます。

2.1.1. 連鎖物質場への移行

 物質場システムをの有効性を向上させる必要がある場合は、物質場の一部分を独立して制御することの出来る物質場への変化させて、連鎖物質場を形成させます。


(図のВ3やВ4をさらに発展させて、物質場にすることもできます。)

発明者証 No.428119
クサビと加熱素子のついたガスケットとからなるクサビ装置。
特異点:クサビの取り外しを容易にするためにガスケットは2つの部品から作られていて一方の部品は低温で溶解する。

発明者証 No.1052351
(単一の円筒ではなく)2つの同心のブッシュからなる組み立てツール。2つのブッシュはお互いに線膨脹係数の異なる2つの素材で出来ていて、2つの中間で軸方向の締め付け力を規定の力以上に保証することが可能です。

 生産システムの中に物体があって、それがなんらかの軸の周囲で重力によって動いている、あるいは、動かなくてはならず、その動きを制御する必要がある場合、思うように動かすことができる物質をその物体の中に入れ、物質を動かすと物体の重心が移動するようにすれば課題を解決することができます。

発明者証 No.271763
カウンターウエイトを動かすことのできる自走式クレーン。

発明者証 No.508427
急坂での作業のために重心を移動させることの出来るトラクター。

発明者証 No.329441
{鹿おどしタイプの}首振り式の液体計量器は、常時液体が流れ込んでいる容器と、カウンターウエイトからなっている。容器が満たされると計量器が傾いて規定量の液体を注ぐ。しかし、このタイプの計量器は元に戻るタイミングが早すぎるため液体の一部が容器の中に残ってしまう。これを避けるために、カウンターウエイトにガイドとガイドの中を自由に動くボールとを取り付けるアイデアが提案された。計量器が傾くとボールがガイドに沿って動いて装置全体の重心を移動させる。それによって、計量器が元の位置に戻り始めるタイミングが遅くなるため液体が完全に注ぎだされる。

 連鎖物質場は物質間の関係を発展させることによって作ることも可能です。その場合はВ1とВ2との間の関係がП2とВ3とのリンクに置き換わることになります。

イギリス特許 824047
1つの軸から他の軸に回転力を伝える装置(クラッチ)。{別々の軸に固定された}外側、内側の2つのローターとそれを取り巻く電磁石によって構成されている。2つのローターの間は磁場によって硬化する磁性流体によって満たされている。電磁石が働いていないときは2つのローターは相互に自由に回転するが、電磁石が働くと磁性流体がローター同士を結びつけ、それによって軸から軸へと回転力が伝達される。

2.1.2. 重層物質場への移行

 制御しにくい物質場があって、その有効性を向上させたいものの、その際に、物質場を構成している要素を変化させることが許されない場合は、制御しやすいエネルギー作用を導入して重層物質場を形成することによって課題を解決します。

発明者証 No.275331
{鋳造に使う}取鍋(とりべ)から注出する溶融金属の量の調整方法。
特異点:注出時の危険を回避するために注出口での液圧を注出口の上にある溶融金属の高さによって制御するために電磁石を使って金属を回転させる。

課題4

人工的に球電を作る装置はヘリウム(3気圧以下)の入った反応器(「樽」)です。ヘリウムに強力な電磁波を照射するとヘリウムの中にプラズマ状のフィラメント電荷が生じてそれが絡み合った球状のプラズマの塊ができます。この塊を「樽」の中央に位置させるために樽の周囲に円周状にソレノイドを配置して磁気を発生させます。実験条件を変えて照射する電磁波を極めて強力にしました。プラズマの温度が上昇し、それにつれて密度が減少し軽くなりました。結果として、プラズマの塊は上に浮き上がるようになってしまいました。球電を「樽」の中央に保持しようとしてソレノイドのリングの出力を大きくしましたが、よい効果は得られません。少しだけ動きが遅くなりましたが球電は浮き上がってしまいます。実験に加わっていたピョートル・カピッツァの同僚達は装置を分解してこれまでのものよりはるかに強力なソレノイドをもった新しい装置を作ろうと言い出しました。しかし、カピッツァは他の解決策を発見しました。どんな解決策でしょうか。

標準2.1.2に沿った課題4に対する解決策:

有効性が十分でない(制御できない)物質場があります。重力の作用と、プラズマ電荷、気体が要素となっています。第2の(制御することの出来る)エネルギー作用が必要です。どのようなエネルギー作用でしょうか。課題の状況から判断して重力、熱、電気、磁気、電磁波は除外されます。残るのは、様々な種類の機械的エネルギー作用です。第一に考えられるのは遠心力です。

「アイデアというのはヘリウムガスを回転させることでした。ガスと一緒に球電も回転して浮き上がらなくなりました。私たちは最もありふれた、電気掃除機にもついているのでだれでも知っている、送風機を使ってガスを回転させ続けたのです。ちなみに言えば、始めのうちは電気掃除機そのものを使っていました。」
『化学と生活』、1971 No.3、p.8 )

2.2. 強化物質場

 このサブクラスに含まれる6つの標準の共通する考え方は、単純物質場、複合物質場を問わず、新しい物質やエネルギー作用を導入しないで物質場の有効性を向上させる点です。これは、既存の物質場資源を強制的に利用することによって達成されます。

2.2.1. 制御が容易なエネルギー作用への移行

 既に物質場が存在する場合、そこに含まれる制御できない(あるいは、制御しにくい)エネルギー作用を制御可能な(制御しやすい)エネルギー作用に変化させることによって、物質場の有効性を向上させられるかもしれません。例えば、重力の作用を機械的作用に変える、機械的作用を電気作用に変える、などです。

発明者証 No.989386
毛細管から押し出される液滴内の最大圧力法による液体の表面張力測定法。
特異点:高価な素材を節約し、テスト結果の再現性を高め、測定可能な素材の範囲を拡大するために、遠心力を用いて最大圧力をえる。液滴が毛細管から押し出される瞬間の液体の回転速度を測定する。

発明者証 No.496146
放電加工の工程中にアノード溶液の生成物を取り除き電解質を浄化する方法。
特異点:浄化品質を高めるため、新しい電解質を静電気で帯電させて加工箇所まで送り届ける。

発明者証 No.1002259
界面活性剤と凝集剤の存在下で粒子状物質の流動層でエアレーション{通気・曝気}とフローテーション{浮上分離}を行って生物学的懸濁液を濃縮する方法。
特異点:微生物汚泥の濃縮度を高めるためにエアレーションの際の粒子状物質には強磁性体粒子を、フローテーションでは強誘電体粒子を用いる。

2.2.2. ツールの分割

 既存の物質場は、ツールの役割を果たしている物質の細分化(分割)の程度を大きくすることによって有効性を向上できることがある。

解説:

  1. ВМは多くの小さな粒子から成り立っている物質を意味しています。(砂、粉、ショットなど)
  2. 標準2.2.1は技術システムの進化の基本的な法則性の1つ、ツールあるいはツールの中のワークと直接作用する部分が微細化する傾向を反映しています。

発明者証 No.272737
一本の同じパイプラインを使って種類の異なる液体をシリーズで輸送する場合には間にピストンタイプあるいはボールタイプのスペーサーを入れる。しかし、これらのスペーサーには短期間で破損する、つまるなどの不具合がある。液体と液体との間に2つの液体の平均密度をもった直径 0.3-0.5mm のショットでできたスペーサーを入れるアイデアが提案された。

発明者証 No.354145
石炭掘削用のシールドで太いビームの代わりに細いロッドを束にして使うアイデアである。この先の進化のラインが見える。ロッドの束からワイヤーの束への変更である。

2.2.3. 毛細管−多孔性物質への移行

 物質の細分化の特殊な形態として稠密の物質から毛細管−多孔質への移行があります。この移行は次のラインに沿って進展します。

稠密な物質 →
中に1つ空洞のある稠密な物質 →
中に多数の空洞のある稠密な物質(沢山穴の空いた物質) →
毛細管−多孔性物質 →
特定の構造(とサイズ)の穴が空いている毛細管−多孔性物質

 このラインの展開に従って細管、穴の中に液状の物質を入れたり、物理的効果を利用したりする可能性が拡がります。


{訳注:ВКПМは毛細管−多孔質構造をもつ物質を意味します。}

発明者証 No.243177
支柱が支えている丸天井の荷重を基礎に伝える装置。
特異点:荷重が基礎に均一にかかるように中に液体が入った密閉した平らな容器になっている。

発明者証 No.878312
格子の間に粒子をつめたものを本体とするフレームアレスター(逆火防止装置)。
特異点:炎漏れを防ぐ効果を高めるために本体につめる粒子を低融点物質でつくり中に消化剤がつめてある。

発明者証 No.403517
稠密でなく毛細管/多孔性に作られたハンダごて。接合部分を剥がす時にハンダを吸い取らせることができる。

発明者証 No 493252
(大きな容器の代わりに)毛細管の束を使って、接着剤を正確に塗る仕組み。

発明者証 No.713697
射出ヘッドはボディー、多孔性素材でライニングされた樹脂流体の流路、および、ライニングを通して流路に潤滑剤を送り込むためのジョイントからなる。
特異点:コストを節約するために比較的低圧で潤滑剤を送り込むことが可能なようにライニングを2層にしてある。ライニングの外側は大きめの穴にし、流体に直接触れる内側は小さめの穴になっている。

2.2.4. 物質場の柔軟化

 既に物質場が存在する場合、柔軟性の程度を高めることによって有効性を向上させることが可能な場合があります。つまり、システムの構造をより柔軟で容易に変化させられるものに変えます。

解説:

  1. 波形のついている三角形は稼働中に変化する柔軟な物質場を意味します。
  2. 物質В2の柔軟化は多くの場合В2をヒンジで連結された2つの部分に分割することから始まります。その後の柔軟化は次のラインに沿って進みます:
     ヒンジ1つ − 多数のヒンジ − 柔軟なВ2
  3. Пの柔軟化の最も簡単なケースは恒常的なエネルギー作用(あるいはПとВ2との作用)を間欠的作用に変えることです。

発明者証 No.324990
並木の支柱。並木に沿って張るワイヤーを取り付ける支柱として作られている。
特異点:冬に備えて並木の枝を曲げて結びつけるワイヤーと同じ用途にも使えるようにヒンジで繫がれた2つの部分から出来ている。

発明者証 No.943392
磁場を用いたセメントスラリーの処理法。
特異点:処理品質を向上させるためにパルス磁場を使ってスラリーを処理する。

 第1種相転移(例えば、水の凝固、氷の融解)、あるいは、第2種相転移(例えば、形状記憶効果)を利用することによってシステムを効果的に柔軟化出来る場合があります。

発明者証 No.280867
電解セルに電力を供給する母線と母線との間を低融点化合物で繫ぐ方法。
特異点:低融点化合物の酸化を抑えながら母線間の接続品質を改良するために、接続部で発生する熱量を調整し電解セルが稼働中は接続部が固体になり、電解セルの取り外し中、あるいは、接続部を取り外す時には接続部が液体になるようにする。

発明者証 No.710736
ワイヤーを曲げてループを作る装置。ボディーに心金(しんがね)と曲げ工具が取り付けられている。
特異点:構造を簡単にするために曲げ工具はヒーターを備えている。曲げ工具はチタンニッケル合金などの形状記憶素材で作られていて加熱すると熱処理の際に設定された形状に変わり、冷却すると当初の形に戻る。

2.2.5. エネルギー作用の構造化

 既存の物質場があって、そこにあるエネルギー作用が均一な、あるいは、不規則な構造になっている場合、不均一な、あるいは、特別な3次元構造をもっているエネルギー作用(恒常的な作用、あるいは、間欠的な作用)に変えることによって物質場の効率を改善できる場合があります。

解説:
Пはエネルギー作用がなんらかの特別な空間的あるいは時間的構造をもっていることを意味します。

発明者証 No.504538
船舶の船倉などの(毒性のガスによる)燻蒸法。クレーム1:音波を利用する。3:複数の音源が逆の位相で音を出して定常波を作るようにする。

発明者証 No.715341
粉の粒子に別々の電荷をかける。一方の電荷をかけた粉の層の上に反対の電荷の粉を層状に乗せる。不均一な電流を流しながらこれを動かす。動き始めると2種類の粉が短時間でよく混じり合う。

発明者証 No.1044333
流れの中から弱い磁気を帯びた微少な破片を取り除くために、コルゲート板によって作られる不均一な磁場を利用する。

 物質場の中にある(あるいは、物質場に挿入する)物質に特定の空間的構造を与えなくてはならない場合、その中で働いているエネルギー作用のプロセスはその物質がもつことになる構造に対応したものとしなくてはなりません。


{Вは物質が何らかの特別な空間的あるいは時間的構造をもっていることを意味します。}

発明者証 No.536874
ワークピースに超音波振動を与えて塑性変形を生じさせることによって棒状の素材を立体形状に加工する方法。
特異点:ワークピースをサインカーブのような反復形状に加工するために、超音波の山の部分が製品の出っ張りに、谷が製品のへこみに対応するようになる位置にワークピースを配置して作用を受けさせ、結果として軸方向に塑性変形を起こさせる。

 例えば、エネルギー作用がある箇所に集中し、逆に作用が働かない箇所もあるといった具合に、エネルギー作用を分布する必要がある場合には、定常波を利用するようにします。

発明者証 No.1085767
基盤上の研磨剤にマイクロピペットを斜めにあてて尖らせる方法。
特異点:研磨の性能を向上させるために定常波を使って研磨剤の小さなローラーを形成させそこに処理するピペットの先を触れさせる。

 標準2.2.5はしばしば標準1.2.5(磁気による関係の遮断)と組み合わせて使われます。

発明者証 No.729658
プレスによってフェライトのプレートを作った後に加熱してプレートの中に磁性をもたない部分を生じさせて行う、複雑な磁性特性を持ったフェライト製品の生産方法。
特異点:製品の機械的強度を高くするためにプレートの一部分だけを磁性を失うまで熱するようにする。

発明者証 No.880570
電磁鋼板の基盤の上に型となる部分を乗せた後に電流を通して固定することによって、図面に従って金型を組み立てる方法。
特異点:作用効率を高めるために型となる部分は感温磁性材料によって作ります。電磁鋼板の上に感温磁性材料を均一に配置した後に図面に従って赤外線を照射し、照射した部分の温度がキュリー点以上まで熱します。その後に電磁鋼板に電流を流すと磁性の残っている部分だけが電磁鋼板に固定されます。

課題5

仮に、タウ・キタという惑星があって、そこで生命体が発見されたとします。生命体といってもプランクトンのようなものです。無人宇宙船が水の中に入った小さな(50-100ミクロン)生命体の塊を地球まで持ってかえりました。すぐに1つの課題が明らかになりました。この「宇宙生命」が常にブラウン運動をしているとしたら、顕微鏡を使って観察するにはどうしたら良いでしょうか。顕微鏡を覗いても何も見えません。タウ・キタの生き物は「今そこに居ると思ったら、もう消えた」という具合なのです。

顕微鏡で観察を行うためには、検体をしばらく(1−2分)一カ所に止めておかなくてはなりません。微細な検体を生きたまま(最大限自然に近い状態で)固定するアイデアが必要です。

参考まで。プランクトンは実際は自分の力で動き回ることはできません。水の動きにつれて、あるいは、ブラウン運動によって移動するだけです。

標準2.2.5に沿った課題5に対する解決策:

発明者証 No. 523397
定常波を起こす。粒子は定常波の節に固定されます。

2.2.6. 物質の構造化

 既存の物質場があって、そこにある物質が均一な、あるいは、不規則な構造になっている場合、物質に不均一な、あるいは、特別な3次元構造を(恒常的にあるいは一時的に)与えることによって物質場の効率を改善できる場合があります。

解説:
Вは物質がなんらかの特別な空間的あるいは時間的構造をもっていることを意味します。

発明者証 No.713146
多孔性の耐火煉瓦の製造法。指向性をもって揃った穴をあけるために可燃性の絹糸を用いる。

 システムの特定の箇所(点、線)で激しい熱作用を得る必要がある場合には、そうした箇所に予め発熱性物質を配置しておきます。

2.3. リズムの一致による強化

 サブクラス2.3にはとりわけコストパフォーマンスの良い強化物質場に関する標準が含まれています。サブクラス2.3の標準は、物質やエネルギー作用を導入するあるいは大きく変化させる替わりに、数、周波数、サイズ、重量を変化させるだけです。このようにすることによって、システムを最低限度変化させるだけで著しい新しい効果が得られるのです。

2.3.1. エネルギー作用とワーク(あるいはツール)との間のリズムの一致

 物質場システムの中のエネルギー作用はワークピース(あるいはツール)の固有振動数と一致(あるいは意識的に一致しないように)していなくてはなりません。

発明者証 No.614794
心臓の鼓動に同期してマッサージを行う装置。患者を入れる浴槽の壁面に蛇腹式のポンプを取り付け、患者の身体に取り付けたセンサーのシグナルに合わせて治療効果を持った液体、あるいは、泥を脈動的に送り出す。

発明者証 No.787017
尿管にループを挿入し尿管結石に巻き付けて結石を取り出す方法。
特異点:取り出すことの出来る結石の形や大きさの種類を多くし、尿管の損傷や患者の痛みを軽減するためにループを引く力をかける周期を尿管蠕動の周期に一致させる。

発明者証 No.317797
炭坑で掘削を行う前に炭層に人工的に脈動する圧力をかけて予め地盤をゆるめる方法。
特異点:地盤を不安定にさせて予めゆるめる効果を高めるために、地盤の固有振動数に合わせて圧力をかけるようにする。

発明者証 No.856706
高周波脈動磁場と同期させて溶接棒を使って行うアーク溶接法。
特異点:作業効率を向上させるために磁場を脈動させる周期を溶接棒の固有振動数と一致させる。

発明者証 No.641229
ボイラーの灰坑の落とし口にできた灰の固まりをバーナの炎で崩す方法。
特異点:灰の固まりを崩す効率を改善するために、バーナーの燃料に空気を混ぜて爆発的な燃焼を起こすが、その際、爆発のリズムを灰坑の固有振動数に一致させる。

発明者証 No.307896
ノコギリを使わずに幾何学的サイズを変化させる切断ツールを使って行う木材の切断法。
特異点:ツールを木材に食い込ませる際の力が小さくてすむようにするために、切ろうとしている木材の固有振動数に近い脈動周波数をもった切断ツールを用いる。

発明者証 No.940714
蜜のはいった巣にマイクロ波を照射して、結晶化した蜜を巣から取り出す方法。
特異点:巣が変形しないためにマイクロ波の照射と並行して巣を冷却する。他方で、マイクロ波は水の双極子の共振振動数と同じ周波数を用いる。

反共振の例:

発明者証 No.514141
2組の同心に配置されたペアを含む機械式シール。
特異点:振動の激しい条件でのシールの信頼性を向上させるために2つのペアの固有振動数は相互に異なるものになっている。

発明者証 No.714509
一カ所あるいは数カ所にコイル状に巻いたところのある電送線。
特異点:氷着や風による荷重によって電線の揺れが大きくなりすぎないず、電線としての信頼性を高くするために、コイルの巻きのうち外側の1巻きの直径を他の巻きよりも大きく取る。

課題6

雑誌『発明。発見』の1985年第5号の99ページに発明者証 No.1138511 の内容が次のように紹介されています。

「岩盤にセメントスラリーを注入して亀裂のある岩を安定させる方法。
特異点:セメントスラリーを注入する際に安定させることのできる範囲を広くしてコストを削減するために、対象の岩と周囲の岩とを振動させて相互に接触させるようにする。」

法則に沿って発明者証 No. 1138511 を発展させて、次の段階の技術を予測して下さい。

標準2.3.1に沿った課題6に対する解決策:

明らかに、上に紹介した発明者証 No.317797 では破壊する地盤を緩くするために共振振動数の周波数に合わせて液体を注入しましたが、それと同種のケースです。発明者証 No.1138511 では岩盤を緩めるのではなく強化しなくてはなりません。したがって、このケースの次の発明ではセメントスラリーを注入する周波数を岩盤の固有周波数と一致させない(ひょっとすると、一致させる、かもしれません)ようにすることです。

2.3.2. 使用されるエネルギー作用相互間のリズムの一致

 複合物質場システムでは使用するエネルギー作用の振動数を一致させる(あるいは、意識的に一致させない)ようにしなくてはなりません。

発明者証 No.865391
磁界移動と振動を用いて行う微細粒子の強磁性鉱の選鉱法。
特異点:選鉱プロセスの効果を高めるために磁界移動と振動とを同期させる。

発明者証 No.521107
粉状のコーティング材料を用い脈動電流と磁場によって電荷によるコーティングを行う表面処理法。
特異点:コーティングの硬度と組織の粒度の細かさを実現するために磁場の脈動と電流の脈動とを同期させる。

2.3.3. 両立不能のあるいは相互に独立していた作用の間のリズムの一致

 2つの作用、例えば変化{加工}と測定、が両立しない場合は、一方の作用を他方の作用が中断されている時に実行するようにします。忘れないで下さい。一方の作用が中断してる時間は他の有益な作用で埋めなくてはいけません。

発明者証 No.336120
基準熱起電力の測定に基づく(主に薄板部品の)スポット溶接の自動制御法。
特異点:精確な制御を実現するためにスポット溶接の電流を極めて短いサイクルで断続的に流し、サイクルとサイクルとの間の電流が流れていないタイミングで繰り返して基準熱起電力の測定を行う。

発明者証 No.343722
固定したベッド面上で薄く広い面積をもつ金属板を圧延加工する方法。
特異点:極めて幅広の薄板を作るために延長方向に移動するローラーによる圧延加工の中断時間中に部分部分で横方向の圧延を行う。

発明者証 No.778981
加工中に高周波によって部品を加熱しながら行う脈動電流による電解加工法。
特異点:生産性を向上させるために、電解加工の脈動電流が流れていないポーズ時間を利用して高周波による加熱を行う。

2.4. 磁性場(付加−強化物質場)

 物質場の強化は同時に複数の標準アプローチによって進展する場合があります。最も効果の大きい強化が得られるのは磁性場(つまり、磁性物質を分散配置して磁気作用を利用する物質場)です。

訳注:「磁性場」とは、以下に紹介される特定の形で磁力が関与した物質場を指します。

2.4.1. 前磁性場への移行

 既存の物質場システムは、強磁性物質と磁気の作用とを利用することによって有効性を改善できる可能性があります。

解説:

  1. これは微細な粒子状ではない磁性物質の利用に関する標準です。磁性場に至る途上の構造といえる「原磁性場」あるいは「半磁性場」を対象としています。
  2. この標準は単純物質場だけでなく、複合物質場にも、また、外部環境を利用する物質場についても適用可能です。

発明者証 No.794113
溝彫り、パイプの敷設、パイプ接続部へのフィルター材の取り付けおよび埋め戻しを含む排水パイプの敷設法。
特異点:パイプ同士の間にずれが無く正しく敷設できるようにするために、敷設前にパイプおよびフィルター材の表面を強磁性物質の層でコーティングして磁化させておく。

発明者証 No.499898
密封容器、注入ヘッド、空気の取り入れパイプ、排出パイプ、ミキシング・チャンバー、および粉末供給メカニズムからなる(主として、粉末と空気の混合物の)フィーダー。
特異点:粉末供給メカニズムの寿命を長くするために、その作動装置は柔軟な強磁性物質でできた要素とする。例えば、注入ヘッドの軸に沿って配置したスチールロープとする。注入ヘッドは{粉末を入れた}常時性素材で作られて密封容器とミキシング・チャンバーとを繫いでいる。作動装置となる要素の駆動は注入ヘッドの周囲に並べて配置した電磁石を順次働かせることによって行う。

2.4.2. 磁性場への移行

 システムの制御性を向上させるためには物質場あるいは「前物質場」から磁性場に移行する必要があります。これは物質のうちの1つを強磁性粒子からなる物質——小片、大小の粒子など——に替え(あるいは強磁性粒子を添加し)、磁石あるいは電磁石による作用を利用することによって行います。

 強磁性粒子の細分化の程度を高めると制御性を改善することができます。したがって、磁性場の進化は次のラインに沿って進みます:

粒 −
粉 −
微細な強磁性粒子。

 制御性を改善は、また、強磁性粒子を添加した物質の細分化の程度を高めることによっても実現することができます。この場合の進化は次のラインに沿って進みます:

固体 −
粒 −
粉 −
液体。

解説:

  1. 磁性場への移行は2.4.1(強磁性物質の導入と磁力の利用)2.2.1(物質の細分化)という2つの標準を合わせて適用したものと見なすことができます。
  2. 磁性場に変化した物質場システムは、物質場の進化の道筋を繰り返すことになります。しかし、今回は制御性と有効性が大きく向上した新しいレベルでの進化となります。2.4のグループに含まれるすべての標準は、一連の通常の標準(2.1 - 2.3のグループ)の一種の「同位体」と見なすことができます。磁性場は著しい実践的意味を持っているので、「磁性場」のラインを独立した2.4のグループとして独立させることが(少なくとも、標準体系の進化の現在の状況としては)妥当と判断されます。これとはべつに、「磁性場の列」はこれより粗い「物質場列」を研究しその今後の進化を予測するための精密なツールとして好都合です。

発明者証 No.1045945
液体の容器、液体の入り口および出口のパイプおよび高電圧電源に接続された電極からなるエアゾールスプレー。
特異点:電荷をもったエアゾールがより細かい分散状態となるために、容器の周囲に電線のコイルを巻き内側には磁化された硬質磁性材料の粒子を入れる。

発明者証 No.1006598
水より軽い非吸水性で断熱性のある物質でできた顆粒でできた断熱層で表面を保護することによって貯水槽の表面の凍結を避ける方法。
特異点:断熱物質が流れて失われることを無くし、表面が確実に保護されるようにするため、断熱層は磁性材料によって金属化された素材の顆粒で作り、それを相互の対立する磁極の間におくようにする。

発明者証 No.1068693
円形の電磁石の中をゆるい強磁性材料で埋めて作る、アーチェリーの的。

発明者証 No.329333
ソレノイド制御空気圧機器用スロットル。ボディーには空気のチャンネルがあり、チャンネルには空気の入り口と出口となるジョイントが接続されている、信号を送るターミナルが取り付けられた電磁石、およびバルブが含まれる。
特異点:装置の信頼性を高め、構造をシンプルにするためバルブは空気のチャンネルに2つのグリッドを置き間に強磁性体の粉末を入れたものとなっている。

発明者証 No.708108
パイプラインに硬化してパイプを密閉する栓を形成することができる混合物を入れて、一時的にパイプラインを閉鎖する方法。
特異点:作業の有効性を高めるために混合物の中に強磁特性をもった吸着剤を混入れておき、パイプラインに混合物を送り込む時には閉鎖個所に磁場を作用させる。

発明者証 No.933927
鉱山の岩盤に強磁性粒子を含む液体を注入し、そこに電磁石で磁場を働かせることによって岩盤を破壊する方法。

課題7

スチールの針金はダイス(金型)を通して引抜き(線引き)して製造します。その際、ダイスは針金との摩擦で短時間で摩耗し穴が大きく(したがって、針金が太く)なってしまいます。ダイスは頻繁に交換しなくてはなりません。どうしたら良いでしょうか。

標準2.4.2に沿った課題7に対する解決策:

物質場が磁性場に移行する展開的なケースの1つです。発明者証No. 499912「引抜きによる塑性変形を含むダイスレスのスチールの針金加工法。
特異点:曲げ加工や加熱を行わずに一定の径の針金をえるため、電磁場の中に置いた強磁性物質の中を通して引抜きを行って必要な変形を実現する。」

2.4.3. 磁性流体の利用

 磁性場の有効性は磁性流体——灯油、シリコン、水の中に強磁性微粒子を入れた磁性コロイド溶液——を利用することによって向上出来るかもしれません。標準2.4.3は標準2.4.2の究極的な形態と見なすことができます。

発明者証 No.1124152
低粘性流体の環状壁層を形成させることによってパイプラインのパイプ抵抗を軽減する装置。
特異点:コストを下げるために環状壁層を形成させる方法としてパイプの幅の周囲に幅の0.5–10倍の距離をおいて配置した永久磁石を用いる。一方、低粘性流体は磁性流体を用いる。

発明者証 No.1068574
エプロン部に固定され柔軟な物質で作られた密封シェルと中に入れるフィラーからなる特性を変化させることの出来る仮ダム装置。
特異点:ダムとしての信頼性を高めるためにシェルの中に導電性で螺旋形をしたフレームを入れ、フィラーには磁場をかけると硬化する磁性流体を使う。

発明者証 No.438829
例えば、パイプラインとそこから突き出す分岐パイプとの間をシールするために用いるストッパー。シール用のコップの様な形をしている。
特異点:取り付け、取り外しが便利なように「コップ」の周囲表面にには電磁コイルが巻いてあり、シールに磁性流体を用いる。

発明者証 No.740646
主として密閉されたチェンバーの中で用いる磁力による搬送装置。非磁性のパイプの中の輸送個所から運ばれるもの、駆動磁性要素、および、パイプの外に配置され駆動要素に連結されて永久磁石によって牽引される荷台からなる。
特異点:作動の信頼性を高めるために駆動要素は磁性流体によって作られる。

発明者証 No.985076
磁性流体を焼き入れ媒体として使用する。

2.4.4. 磁性場における毛細管−多孔性構造の利用

 磁性場の有効性は多くの磁性場システムに内在する毛細−多孔性構造を利用することによって改善できる可能性があります。

発明者証 No.1013157
強磁性粒子層によって覆われた磁気シリンダーの形をしたウェーブはんだ付け装置。主な用途は余分なハンダの除去。また、多孔性構造を通じてシリンダーの中の空洞にはいっているフラックスを供給する役割も果たしている。

2.4.5. 付加磁性場への移行

 磁性場に移行してシステムの制御性を向上させる必要があり、しかし、物質を強磁性粒子にかえることが許されない場合には、{物質場を構成している}物質の1つに付加物を加えて、内部付加物質場、あるいは、外部付加物質場に移行します。

発明者証 No.751778
電磁石リフトを用いて部品を搬送する方法。
特異点:非磁性の部品を搬送可能にするため、部品を予め何磁性の素材で包んでおく。

2.4.6. 外部環境を利用する磁性場への移行

 物質場から磁性場に移行してシステムの制御性を向上させる必要があり、しかし、物質を強磁性粒子にかえる(あるいは、物質に付加物を加える)ことが許されない場合には、周囲の外部環境に強磁性体粒子を導入し、磁場を作用させることによって環境の特性を変化させ、それによって、環境内におかれたシステムを制御します(標準2.4.3):

発明者証 No.469059
磁石の両極の間に金属の非強磁性可動要素を挿んで振動を緩和する方法。
特異点:制振に要する時間を短縮するために磁石の両極と可動要素との間に磁性流体を挿入し、振動の大きさに比例させて磁場の磁界強度を変化させる。

 システムの中で浮かすことが使われている、あるいは、システムの部品の1つが浮いている場合は、液体に強磁性粒子を混入させて液体の擬似密度を制御するようにします。もう1つの制御の方法は液体に電流を流して磁場に作用させることです。

発明者証 No.527280
ターンテーブルおよびフロートの形になっていてターテーブルとブラケットを通じてピボット方式で繫がれ、液体の入った容器に入っている結合部からなる溶接用マニュプレータ。
特異点:ターンテーブルの動きを速くするために液体に強磁性混合物を混入させ、液体の入った容器を電磁石コイルの中に設置する。

 外部環境として電気粘性流体を利用して電気の作用で制御することも可能かもしれません。

2.4.7. 物理的効果の利用

 既存の磁性場が存在する場合は、物理的効果を利用することによって制御性を向上させることができるかもしれません。

発明者証 No.452055
コアへの熱作用を利用して磁気増幅器の測定感度を向上させる方法。
特異点:増幅器の作動中の磁気ノイズを低減するためにコアの絶対温度をコアの素材のキュリー温度の 0.92-0.99 に維持する。(ホプキンス効果を利用)

2.4.8. 磁性場の柔軟化

 既存の磁性場がある場合、柔軟化、すなわちシステム柔軟に変化する構造に変えることによって制御性を向上できる可能性があります。

発明者証 No.750264
測定回路を備えたインダクティブトランスデューサと検査する壁の両側に設置された強磁性要素からなる非磁性素材で作られた壁の厚さを検査する装置。
特異点:測定精度を高めるために強磁性要素は柔軟な風船状のシェルを強磁性フィルムで包んだものとする。

発明者証 No.792080
農業機械に取り付ける各種作業装置のテストに用いる擬似土壌。土壌には強磁性粒子を混入することが想定されている。
特異点:農業機械の各種作業装置のテスト条件を幅広く設定できるようにするため強磁性粒子に磁場を作用させ、磁界強度を調整する。

課題8:

発明者証 No.903090 には「表面を研磨剤で覆った柔軟な素材の風船の形をした工具を使って部品を研磨する方法は既に知られている。研磨は工具を常時部品に押し付けた状態で行う。研磨剤が加工面に均等に押し付けられるように風船の中に強磁性粒子を入れて懸濁液状にして、永久磁場を工具に作用させる。これによって研磨剤の加工面への押し付けを均等化して加工精度を高めることが可能になる。しかし同時に、部品との接触面の面積が増加し、切削個所で温度が上昇し、研磨剤の鈍化が促進され、結果として加工面が粗くなり作業の生産性が低下する。……」とあります。どうしたら良いでしょうか。

標準2.4.32.4.72.4.8に沿った課題8に対する解決策:

研磨剤を常時押し付けることを止めて断続的に押し付けるようにします。接触面は振動するようになり、摩擦が減少します。これを行うために、強磁性懸濁液に変動する磁場を作用させます(柔軟化)。強磁性体に対する磁場の作用を最大にするために、懸濁液に入れる強磁性体を磁歪特性をもった素材とします(物理効果の利用)。

2.4.9. 磁性場の構造化

 既存の磁性場がある場合、そこにある磁場が均一な、あるいは、不規則な構造になっている場合、不均一な、あるいは、特別な3次元構造をもった磁場(恒常的な作用、あるいは、間欠的な作用)に変えることによって物質場の効率を改善できる場合があります。

発明者証 No.545479
磁場を用いて熱可塑性樹脂を立体構造に造形する方法。強磁性体の粉末を金型として用いる。粉末を加熱するが一部の箇所をキュリー点を少しだけ越えた温度まで熱する。

 磁性場の中にある(あるいは、磁性場に挿入する)物質に特定の空間的構造を与えなくてはならない場合、その中で働いているエネルギー作用のプロセスはその物質がもつことになる構造に対応したものとしなくてはなりません。

発明者証 No.587183
熱可塑性樹脂の表面の層を各所で引き上げた後に冷やして「けば」を作る方法。
特異点:作業効率を改善し、けばの形成プロセスの制御性を向上させるために、引き上げ操作を行う前に素材の表面に強磁性粒子を散布した上で素材が溶けるまで加熱します。引き上げは、強磁性粒子に電磁石を接触させて引抜くことによって行います。

2.4.10. 磁性場におけるリズムの一致

 既存の「原磁性場」あるいは磁性場システムは、システムに含まれている要素の間のリズムを一致させることによって有効性を改善することができる場合があります。

発明者証 No.698663
磁気と振動による分離を物質の分離法のアイデア。対象の物質を中に置いて磁場を回転させながら同時に振動を加える。これによって粒子同士の結合力が弱まり分離効果が高まる。

発明者証 No.267455
断続的な振動を使ってバラバラな破片状の強磁性物質を搬送する方法。
特異点:搬送の速度を上げるために断続的振動のサイクルの始めに搬送の進行方向に向かって動くパルス磁場を作用させる。その際、磁場のパルスの長さは振動が中断している時間と一致させる。

2.4.11. 電気場への移行 − 電流の相互作用を伴う物質場

 強磁性体を混入させたり、帯磁させることが困難な場合は、外部から働かせる電磁石の影響と、直接流すか電磁誘導によって発生させる電流あるいは両者の相互作用による影響とを併用します。

発明者証 No.994726
岩盤の破砕法。並行して設置した2本の電線からインパルス電流を同時に作用させる。

発明者証 No.1033417
金属の非磁性製品をつかんで保持する方法。
特異点:つかみと保持の信頼性を高めるため、つかむ製品に磁場をかけながら、製品の中を通して磁力線と垂直方向に電流を流す。

発明者証 No.865200
果樹棚を作って栽培するベリーを棚線と枝とを一緒に揺すって収穫する方法。
特異点:労力と果樹の傷みを軽減するために、両極が向かい合った永久磁石を持って両極が棚線を挟むよう保持して中の棚線に交流電流を流す。電流が流れたら、棚線に沿って永久磁石を動かす。

解説:
 磁性場は中に強磁性粒子が入っているシステムで、電気場は強磁性粒子に代わって(あるいは、強磁性粒子と並行して)電流の作用が働いているシステムです。

 電気場の進化は、磁気場の進化と同じように、一般的な進化のラインを反復します。

単純な物質場 −
複合物質場 −
外部環境を利用した電気場 −
柔軟化 −
構造化 −
リズムの一致。

 電気場に関する資料は現在蓄積中です。これを分析した結果によって、電気場に関する標準を1つのグループとして独立させることが妥当か否かが決まります。

 電気場に関する標準を提案したのは I.L.ヴィケンチェフ(レニングラード)です。

課題9

貴石や純粋な水晶の切断には極めて細い糸鋸が用いられます。細ければ細い程切りくずが少なくですみます。

ノコギリを動かす方法は何でも(手作業、機械、電気など)可です。難しいのは切り終わるまで一貫して同じ力で同じ方向にノコギリを押し付けていなくてはならないことです。力が一定していると切ったあとの面が一様になります(濁りが無く、熱応力もない、など)。切る方向によって力が一定でないと必ず欠陥が生じます。厳密に常に一定の力で糸鋸を押し付けるアイデアが必要です。

標準2.4.11に沿った課題9に対する解決策:

上に紹介した発明者証 No.865200 は逆の課題を解決しています。課題は棚線を揺らすことです(棚線と細い糸鋸とは何ら違いません)。課題9の解決策は発明者証 No.865200 と同様のものですが、但し電流は、当然交流ではなく直流です(振動を起こすのではなく、振動を止める課題です)。解答は発明者証 No.465311 です。

2.4.12. 電気粘性流体(ER流体)の利用

 電気場の特殊な形態に、粘度が制御可能な電気粘性懸濁液(微細なシリカ粉末を例えばトルエンに混ぜた懸濁液)があります。磁性流体を使うことができない場合には電気粘性流体が使えるかもしれません。

発明者証 No.425660
アンバランス式起震機。偏心バランスを電気粘性流体の中に入れる。

発明者証 No.495467
輸送機械のショックアブソーバに粘性を変化させることの出来る電気粘性流体を使用する。

発明者証 No.931471
電気粘性流体を素材の切断装置のグリップとして使用する。

発明者証 No.934143
内外2層からなるホース。2つの層の間には導電性ワイヤの層が挟まれていて、ワイヤとワイヤの間には柔軟な絶縁物質の層がある。
特異点:剛性を制御できるようにするため、柔軟なで絶縁物資を多孔性にして穴に電気粘性流体を入れておく。

書誌
G.アルトシューラ「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」
『論文集 迷宮の糸』
ペトロザヴォーツク:カレリア、1988年、pp. 165-230
(Альтшуллер Г.С. Маленький необъятные миры: Стандарты на решения изобретательских задач
// сб. Нить в лабиринте.
— Петрозаводск: Карелия, 1988. — С. 165-230.)

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