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MATRIZ(国際TRIZ協会)第8回会議私的レポート

 7月31日から8月3日の間ウクライナの首都キエフで開催されたMATRIZの第8回国際会議 "TRIZFest2013" に参加しました。国際組織としてのMATRIZの設立は1999年ですが、TRIZを創ったアルトシューラ自身が議長だった旧ソ連のTRIZ協会を母体として、彼の提案に基づいて設立されたという意味で世界のTRIZコミュニティーでも別格の組織です。会員は個人ではなく各地のTRIZ団体です。(http://www.trizstudy.com/aboutmatriz.htmlに同協会設立時の宣言が掲載されています)

 管理人は2009年の第5回会議以降4回の会議(2011年までは隔年、それ以降毎年開催)に連続して出席してきましたので、これまでの会議も振り返りながら今回の会議の意味を考えてみたいと思います。MATRIZ自身の公的レポートは本日現在未発表ですので、管理人の観察に基づく独断的な私的レポートとご理解ください。

(その後、2013年8月17日に公式レポートが公開されました。日本語版英語版PDFファイルロシア語版PDFファイル

1.会議の概要

  1. 会場:キエフ、ホテル・ルーシ
  2. 日程:(2013年)
    • 7月31日
      • 事前セミナー:
        • "The Tools for Development of Creativity in Grade School Students" (Anatoly Guin: TRIZマスター)
        • "TRIZ-Based Systematic Business Model Innovation" (Valeri Souchkov: 本会議中にTRIZマスターに認定)
      • TRIZサミット:
        • 恒例としてMATRIZの大会の前日にTRIZサミットという会議が開催されます。この会議はTRIZ専門家有志によるTRIZの理論・方法としての革新・改良についての研究発表会といった位置づけをもっています。
          発表の内容としては大会よりもこちらの方が専門性が高く、内容的突っ込みも深いといえます。
      • 今回、管理人はAnatoly Guinの事前セミナーに出席しました。TRIZサミットについては良く出来た予稿集がありますのでそちらを読んで興味深いものがあれば、何かの形で概要を紹介したいと思います。(これについては、これまでのTRIZサミットについても同じ考えでいるのですが、日本の皆さんに興味深いと思われるTRIZ関連文書の量が膨大なためまだ手がつきません。)
    • 8月1日(発表:全て20分)
      • 全体会議:
        • 会長スピーチ:Dr. Sergei Ikovenko(TRIZマスター)
        • 企業でのTRIZ導入状況について
        • GE ミュンヘン:Dr.Oliver Meyer (Level 4)
        • Samsung電子:Mr. Jun-Young Lee(本会議中にTRIZマスターに認定)
        • 2トラックでの発表(英ロ同時通訳セッションと通訳無しの英語セッション)
          約30件
    • 8月2日
      • 午前:活動実績に基づくTRIZマスター認定審査(3名)
      • 午後:MATRIZ総会(組織としてのMATRIZの運営に関する公式会議)
    • 8月3日
      • 午前:研究に基づくTRIZマスター認定審査(2名)
      • 午後:総括全体会議、エクスカーション
  3. 出席者約70名
    • 旧ソ連圏出身者約50名
    • それ以外約20名

2.会議の内容について

  1. MATRIZ国際会議の従来からの特徴
    • 会議の規模がコンパクトで、従来からの面識も含めて、会期中に全員が全員と知己になろうとすることが会議の1つの目的です。
    • 異なるTRIZスクールの間の内容的対立が表面化して議論が噛み合ない場面が度々みられるが双方が妥協しようとしない。その意味で、幾つかの妥協し難い差異を含みながらかろうじて全体としての統一を保っているのが今日のTRIZの実体だということが良く見えます。
    • とはいえ,常に多数派を占めているのはアメリカのGen3と同社のロシア法人であるAlgorithmのグループで、このグループが世界のTRIZの一体性を維持しながら、MATRIZを実質的に牛耳ろうとしていることを明らかに見てとることができます。他方で他のTRIZスクールに属する人々はその実体を認識しながら、MATRIZの場としての意義を否定はしないといった姿勢が見受けられます。それは、旧ソ連出身のTRIZ関係者の多くがAlgorithmの援助によって職を得ているという実態があるためと思われます。管理人もMATRIZが組織としてGen3+Algorithmによって牛耳られていることが、MATRIZの場で論じられるTRIZの内容を決定することに繋がらない限りは現在の状況は止むを得ないと考えています。
    • 旧ソ連出身のベテランTRIZ専門家がお互い同士の間では激しい対立をしながら、企業、TRIZへの新規参入者に対してはソフトに接しようとしていることが、あらゆる点で見受けられます。
  2. 今回の会議に関する特記事項
    • 国際化の加速
      MATRIZが旧ソ連出身者中心の組織であることが変わったわけではないが、それが組織としての弱点であるという認識が幹部の間にはあります。今回の会議では次の動きが見られました。
      • 9人の幹部会員の内3人は旧ソ連出身者以外(旧ソ連6、韓国1、ドイツ1、フィンランド1)
      • 組織の法的住所をロシアから他国に移動する権限を幹部会に与えた(ロシアの税制が国際団体に不利なため)
      • 組織の主要な収入源はTRIZ認定料であり、被認定者は圧倒的に旧ソ連以外であることが会議の席で発表された
      • 2011年までは隔年にロシアでのみ開催されていた会議を毎年開催とし、隔年は旧ソ連の都市、その間は旧ソ連以外の都市(既に、2012年に試みとしてフィンランドのラッペンランタで開催された)とすることが方針として提案され会議で好意的に受け止められた。
      • 全ての新規参入会員が旧ソ連圏以外。今回の会議では韓国1団体、ドイツ2団体の加入が発表された。活動的な加入団体に占める在外(旧ソ連圏以外)団体の比重は過半数を越えていると推定されます。
    • TRIZマスターの安売り傾向
      • 管理人が初めてMATRIZ会議に出席した2009年の会議の時にはTRIZマスターになるためには長い論文を書き、10人程の先輩マスターによる面談審査をうけ、3分の2前後の審査員により合格と判定されることが必須でした。合格率はせいぜい半分。それでも、管理人の感触としてはTRIZマスターとはその程度で良いのかという感じでした。それに比べても、今年の審査は大甘そのもの。確かに、この間に制度が変わり、論文の他に長期間TRIZの普及に貢献した実績に基づいてマスターに認定される道も開かれました。結局は、TRIZマスターというものの位置づけも変わったということだと思います。つまりは、肩書きだけで人を評価すると間違うことがあるのは〈TRIZマスター〉についても当てはまるというだけのことかもしれません。今年TRIZマスターに認定された5人が実際にどれほど能力のある人なのか、審査を観察しただけの管理人には判断がつきませんでした。
    • 韓国の比重の大きさ
      • 旧ソ連圏以外の参加者約20名の内韓国の人が12人です。Samsung電子、Samsungディスプレー、ヒュンダイ、POSCO、Hynixといった企業に所属する人たちが大半です。
    • ドイツ
      • 少なくとも5つの組織に所属する参加者がありました。彼らと話しをした内容から判断するとTRIZの理解度はそれほど深いようには思えませんが関心が高くなっているのかもしれません。
    • アジア
      • タイとマレーシアからの参加が予定されていましたが直前にVISAの問題などが生じて出席できなかった由です。結果として韓国以外のアジアからは管理人一名のみの参加に終わりました。

3.発表内容

  • 詳細については論文集に眼を通して興味深いものがあったら別途掲示したいとおもいます。
  • ひとつだけ気づいたのは、偶然かも知れませんが、不具合の原因究明および不具合の予測を扱った発表の数が多かったことです。TRIZマスター認定審査論文も含めると5件の発表がありました。

4.MATRIZ総会

  • 過去2年(MATRIZ総会は2年に一回開催されます)の活動報告
    • TRIZ認定制度の小修正
    • 旧ソ連圏以外での加入団体の増加傾向。特にアジアの比重が拡大することが期待される
    • 組織としての収入が以下のように急増している点が眼につきます。認定料収入の飛躍的増加によるもの。
      2011年約4万ドル、2012年約8万ドル、2013年約16万ドル
  • 定款の変更
    • 組織の法的住所の変更を幹部会の決定事項としました
    • 公式原語が〈ロシア語および英語〉とあったものを〈ロシア語およびまたは英語〉と変更。旧ソ連以外の地で大会を開催することを想定して英ロ間の通訳を使わない英語だけの会議を可能としました
  • 幹部会(理事会に相当する機関)メンバーの改選
    • 現幹部の再選:5名(会長S.イコヴェンコ、総括理事M.バルカン、L.チェチューリン、S.リトヴィン、Y.フェドーソフ)。新規選任:4名(O.フェイゲンソン(ロシア)、T.カーシ(フィンランド)、R.アドゥンカ(ドイツ)、J.リー(韓国))。
    • なお、これまでの幹部会のメンバーの内A.ギン(ロシア)と管理人(日本)とは今回で辞任を希望。また、A.クイニン(ロシア)、A.ピニャーエフ(ロシア)、Y.ソン(韓国)は再選されませんでした。結果として、新しい幹部会は従来にも増してGen3+Algorithm色が色濃くでることになりました。イコヴェンコ、リトヴィンはGen3、フェドーソフ、フェイゲンソンはAlgorithmに所属し、アドゥンカ、リーはGen3に所属する教師を指導者としてそれぞれレベル4とマスターとのTRIZ認定を受けています。これによって、Gen3+Algorithmの暴走がただちに始まるとは思われませんが、今後の動き次第ではTRIZコミュニティー再編の動きが発生するかもしれません。
  • 次回会議開催地について
    • 未定ですが、既に数件の開催申し込みがあります。ロシア以外で具体的に提案があるものは韓国ソウルとイスラエル(都市未定)。管理人の予測ではKATA (Korean Academic TRIZ Association) との共同主催でソウルで開催される可能性が高いように思います。

以上

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