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はすにらみTRIZ

オープンタスク

閑話休題

TRIZのツールを使った考え方と解答例(2015年)

2015年5月のオープンタスク (1) : 針金の直径

  1. 理想:
    何もしないで針金の直径が自分で自分の大きさを教えてくれることが理想です。
    • 考え方:針金の直径が自分について話してくれる条件を準備します。
  2. 矛盾:
    与えられた状況を矛盾の形で表現してみましょう。
    • ただし、このケースから矛盾を取り出すにはコツが必要です。ARIZ-85Cのステップ1.1.の但し書き3.の後半(「時には、……)に準じて次のような矛盾を取り出します:
    • TC−1:直径は長さと考えることができますから物差しで測ることができます、しかし、細い普通の物差しでは細い針金の直径を正確に測ることができません。
    • TC−2:細い針金の直径を正確に測履帯場合はマイクロメーターで測ることができます、しかし、この状況ではマイクロメーターがないので使うことができません。
    TC-2から、この問題状況では「小さな長さを正確に測ることのできない計測装置である物差しを使って小さな長さを正確に測ることが求められている」ということがわかります。小さな長さを正確に拡大すれば物差しで測れるかもしれません。
  3. 資源:
    ここで求められているのは「細い針金の太さ」という情報です。これを考慮すると、この問題状況で利用できそうな資源として次が目につきます:
    • 物質資源:物差し、針金、……あとは計測器具以外の身の回りのもの
    • 物質資源が持っている特性:物差し(目盛り)、針金(太さ=数値は不明だが決まっている、長さ=特に制限は無い、材料の特性=適度な硬さと柔軟さ)
    • 情報資源:物差しの目盛り、針金の直径そのもの
  4. 解決策を得る方針:
    物質資源が持っている特性を利用して、針金の直径を物差しで測れる大きさになるまで正確に拡大する方法を探してみましょう。
  5. 解答例:
    • 身の回りにある適当な太さの円筒形のもの(例えば、ボールペンの軸)を利用します。円筒の表面に沿って一重にぎっしりと並べて針金を巻きつけてゆきます。巻きつけた部分がある程度の長さになったら、物差しで測ります。測った部分に針金が何回巻きついているかを数えて、一本分の直径を算出します。
    • 巻きつける代わりに、針金を適当な長さに切り刻んで、平面にぎっしり並べてもいいでしょう。

2015年5月のオープンタスク (2) : 地球外生命との交信

  1. 理想:
    発信する電磁波が自分で自分が人工的なものだと教えてくれることが理想です。
    • 考え方:地球外の知的存在に対して、電磁波が自分で自分が人工的なものだと伝えてくれるようにします。
  2. 矛盾:
    与えられた状況を矛盾の形で表現してみましょう。
    • ここでも、ARIZ-85Cのステップ1.1.の但し書き3.の後半(「時には、……)に準じて次の矛盾を取り出します:
    • TC-1:電磁波を送れば地球外生命体と接触するきっかけとなります、しかし電磁波は元々自然に存在するものですから、それが人工的なものだと気づいてもらえないおそれがあります。
    • TC-2:宇宙には存在しない電磁波を発信すれば人工的なものだと気づいてもらえます、しかし、存在しない電磁波を使うことはできません。
    TC-2から、この問題状況では「自然に存在しない(けれども物理的に可能な)電磁波を発信しなければならない」ということがわかります。自然では宇宙に存在することがありえない電磁波を見つけ出せば良いことになります。
  3. 資源:
    ここで求められているのは「電磁波の形式」です。これを考慮すると、この問題状況で利用できそうな資源として次が目につきます:
    • エネルギー(場の)資源:電磁波の波長、周波数、強さ、波形、以上の変化の仕方。
  4. 解決策を得る方針:
    宇宙には人間がまだ出会ったことのない種類の電磁波がある可能性は大です。ですから、地球外の知的存在に向けてどのような形式の電磁波を送っても必ず人工的だと気づいてもらえる保証はありません。自然状態では発生しそうのない電磁波の形を見つけ出すことを考えます。
  5. 解答例:
    • 宇宙は拡大しつつありますから、一般論では地球と他の天体との間の距離は拡大しつつあります。したがって、宇宙から届く電磁波の見かけの波長はその波の実際の波長より長くなっています。他の知的存在のいる天体を中心に考えても同じことが言えるはずです。それを考慮して、次第に波長が短くなってゆく電磁波を地球から発信すれば、地球外の知的存在の関心を引きつけることが可能です。それを基調として、波長を徐々に長くしたり、徐々に短くしたりの変化を付け加えると、宇宙では極めて稀な電磁波ができるはずです。
    • 上記の電磁波に音楽などの複雑でかつ規則性をもった形式を付け加えると何らかの意図をもった通信と理解してもらえる可能性が一層高まります。

2015年6月のオープンタスク (1) : 商談と社長の呼び出し

TRIZマスターの一人アレクサンドル・クドリャフツェフはTRIZで扱える対象は「人工的に作られた制御可能なシステム」だとしています。

アレクサンドルの説が正しいとすれば、この問題で考慮しなくてはならない対象の「社長」(あるいは「取引先の役員」)はTRIZでは扱えない対象ということになります。それでも私たちはこの問題のような状況にも対処して生きてゆかなくてはなりません。管理人はこのようなケースでも「可能な範囲で最善を尽くすこと」は必要だと思います。そのためのツールとしてTRIZを使ったら、どんなアイデアを提供してくれるか試してみましょう。

  1. 理想:
    次のようになることが理想と言えます:
    1. あなたがすぐに社長の指示に応じないことが妥当だと社長が自分で思ってくれる。
    2. あなたが商談を中断することが商談の目的に合致したことだと取引先の役員が自分で納得してくれる。
  2. 矛盾:
    与えられた状況を矛盾の形で表現してみましょう。
    • TC-1:商談を中止して社長のところにいけば社長の機嫌を損なうことはありません、しかし、説得されかかっている取引先の役員が気分を変えてしまう恐れがあります。
    • TC-2:商談を継続すれば難しい条件を取引先に受け入れてもらえる可能性があります、しかし、社長を怒らせてしまうおそれがあります。
    矛盾を解決する際の定石「分離の原則」を適用すると、次の2つのアプローチが考えられます:
    1. ある観点では商談を中止して、他の観点では商談を中止しないようにする。
    2. ある観点では社長のところに出向き、他の観点では社長のところへいかない。
  3. 資源:
    この問題状況で利用できそうな資源:
    • 物質資源(ここでは人):社長、取引先の役員
    • エネルギー資源:進行中の商談の自社にとっての重要性、商談の状況の切迫性、取引先の真剣さ、社長の商談に対する関心
    • 空間資源:商談が行われている社内という場所
    • 構造資源(ここでは特殊な状況):商談中であること、社内(誰のか取引先に伝わっていないケース、と、あいにく伝わってしまったケースとがありえます)呼び出し
  4. 解決策を得る方針:
    この問題状況では、資源の特性値(例えば、この商談の自社にとっての意味の大きさ、社長の性格・個々の商談に対する関心の大きさ、等々)が重要な意味を持ちますから、解決策を得る方針を一般論で決めることはできません。その意味で、矛盾の解決策として示唆されるcとdとのアプローチは極めて大切なヒントといえます。
  5. 解答例:
    1つのストーリーとして以下のような行動が考えられます。もちろん、具体的な状況に即して他の対応も考えられます。
    1. 取引先に社内から緊急の呼び出しを受けたことを伝え、万一商談に影響があるといけないので、内容を確認するために商談を短時間中断することに同意を得る。
    2. 1.に対する先方の反応に応じて、社長の呼び出しにどれほどの時間をかけて対応するか判断する。
    3. 社長に電話をかけ(それがダメなら出向い)て、重要な商談中であることを伝え、社長の用件への対処を商談後にすることができないか打診する。
    4. 3.に対する社長の回答に応じて商談に戻る、あるいは、社長の用件への対応を部下あるいは他部門に指示・依頼する。
    5. 呼び出しの用件は本件商談に影響を及ぼさないことを伝えて、交渉を継続する。
    6. 場合によっては、呼び出しの用件と商談とを結びつけて、合意形成のための資源として利用することも考えられます。

2015年6月のオープンタスク (2) : 部外者にいじられたくないネジ

求められるデザインには2つ条件がつけられています。(正確に言えば、もう1つ「ネジの頭のデザイン」という条件があります)

  1. 問題の分析 (1)
    はじめに「どんな大きさのマイナスドライバーでも緩めることができない」という条件について考えてみましょう。機能分析を行うとマイナスドライバーが「ネジを緩める」機能を発揮するためには次の2つの部分機能が不可欠だとわかります。
    1. マイナスドライバーの先端(の一部)とネジ穴の壁面(の一部)とを安定的に接触させる。
    2. 接触面を通じてネジか回転する方向に機械的力を伝達する。
    方針:部分機能aおよび/またはbが成り立たないデザインを考える。
  2. 進化の法則を使って部分機能を不可能にする。
    TRIZの進化の法則の中に「システム各部のリズム一致の法則」があります。この法則の具体的な適用法を示唆するオペレータの中に「不都合な作用を避けるためにはその作用に必要な一致を取り除く」という考え方があります。これが使えそうです。
    1. 「マイナスドライバーの先端とネジ穴の壁面との間の安定的な接触」を避ける方策を考えます。マイナスドライバーの先端の形状は平面から成り立っていますから、ネジ穴の壁面に平面が無いようにして面と面との間の安定的な接触を避けます。
    2. マイナスドライバーは自分が回転することによってネジ穴の面に力を伝達します。ドライバーの回転がネジ穴の回転と一致しないデザインを考えると次のアイデアが得られます。
    したがって、次の2つを求めるデザインの要件とします。
    1. 小さいマイナスドライバーの場合は、先端がネジの頭の穴で空回りする。
    2. 大きいマイナスドライバーの場合は、先端がネジの頭の穴に入らない。
  3. 問題の分析 (2)
    今度は2つ目の条件について考えます。
    「頭には溝あるいは凹みがあって、専用の道具を使えば閉めたり緩めたりできる」という条件ですね。この機能には次の2つの部分機能があります。
    1. 専用の道具の先端(の一部)とネジ穴の壁面(の一部)とを安定的に接触させる。
    2. 接触面を通じてネジか回転する方向に機械的力を伝達する。
    方針:部分機能aとbとが両方成り立つデザインを考える。
  4. 進化の法則を使って部分機能を実現する。
    TRIZの進化の法則の中に「システム各部のリズム一致の法則」があります。この法則の具体的な適用法を示唆するオペレータの中に「必要な作用を実現するためにはその作用に必要な一致を作り出す」という考え方があります。2の裏返しのオペレータですね。こんどはこれが使えます。デザインの要件として次を付け加えます。
    1. ネジ穴のデザインと専用の道具は雌雄ぴったり合う形につくる。
    2. ネジ穴を通じて力を伝えられる形状にする(例えば円形のネジ穴では力を伝えることはできません)
  5. 解答例:
    • ネジの頭に中心角60度の相似形の3つの扇型を120度づつ回転させて3枚重ねた形の穴をつけます。その穴にぴったり合う形の専用ドライバーを使って開け閉めします。この形状だと上のi、ii、iii、ivの4つの要件を全て満たすことができます。 解答例

2015年7月のオープンタスク (1) : ハーゲンベック動物園

この問題はTRIZで考える矛盾の典型的なケースと言えます。

まず、前提となっている条件を確認しておきましょう。

  1. 人が野生に近い状態の動物を観察したり、その生活ぶりを身近に感じることのできる動物園を作ることが目標です。
  2. その目標を実現するには高い柵や、鉄格子の檻は使えないという制約があります。
  3. この状況で次の物理的矛盾を解決することが課題です:
    • PC-1:見物客が猛獣を観察できるために、見物客と動物との間の距離を近くしなくてはなりません
    • PC-2:見物客が猛獣に襲われる危険を避けるために、見物客と動物との間の距離を近くしてはなりません

現代のTRIZでは物理的矛盾を解決するアプローチとして次の4つの観点を使います。i. 与えられた状況を空間の観点で2つの状況にわけることを考える、ii. 同じく時間の観点でわける、iii. 構造の観点でわける、iv. そのほかの観点(条件)でわける。

4つの観点から、それぞれどんなアイデアが得られるでしょうか。

  1. 空間: 見物客と動物との間の距離を、見物客が動物を観察するという観点では近くし、猛獣が見物客に近くという観点では遠(近くな)くするアイデア:
    • 猛獣の居る場所を見物客が歩く通路から数メートル低い位置に作ります。
  2. 時間: 見物客が動物を観察する時間帯と、猛獣が見物客を襲う危険のある猛獣が活動的な時間帯とを分けるアイデア:
    • 猛獣が動き回らない時間帯にだけ見物客が動物に近づくようにします。
  3. 構造: 見物客が動物を観察する構造と、動物が見物客を襲う可能性を持った構造とを分離するアイデア:
    • 猛獣の居る空間と見物客が歩く空間との間を透明な物質で分離します。
  4. その他の条件: 見物客が動物を観察することができるが、動物が見物客に近づくことのできない、そうした条件をさがすアイデア:
    • 見物客が猛獣のそばに近寄っても、猛獣は見物客のところには絶対にゆけない(空間、時間、構造以外の)条件として、猛獣のジャンプの特性を利用します。ハーゲンベックは動物が下り坂でジャンプすると遠くまで跳ぶことができないことを知っていました。そこで、猛獣の飼育地の中央部分は見物客の歩く通路と同じ水準にし、飼育地の周辺部分は見物客の通路の下の掘りに向けて下り坂となるようにしました。こうすると、飼育地の周囲に単純に掘を作る場合よりも近い距離から猛獣を観察することが可能です。

2015年7月のオープンタスク (2) : 河の深さ

これはアルトシューラが1975年に書いた論文の中で触れている問題です。アルトシューラは物質場分析と物理的矛盾を使って解決策を導いています。以下に、その内容を紹介します。

問題の条件では最小単位の物質場を構成するの3つの要素(物質1=S1、物質2=S2、エネルギー場=F)のうち1つの物質(水=S1)にしか触れられていません。物質場分析の基本公理を踏まえると、この物質場にはS2とエネルギー場とを導入しなくてはならないと言えます。コストの安い方法が求められているのですから自然で手に入る物質(水、石など)と自然のエネルギー、例えば光を使わなくてはなりません。光を使うとすればS2は表面に見えるようになっていなくてはなりません。つまりは「浮き」ということになります。ここから物理的矛盾(S2は「浮き」であって「浮き」でない)を導き出すことができますが、これを解決策にもう一歩近づけると、S2は時々浮いたり沈んだりする(これを実現するのは難しそうです)、あるいは、S2は2つの部分からなっていて一方は「浮き」で他方は沈むもの(錘)だということになります。(図1でAは「浮き」、Bは「錘」、CはAの真下の海底の点です)

図1
(図1)

物質場分析と物理的矛盾が使えるのはここまでです。私たちは(物質場に光を反射することのできるS2を導入したことによって)物質場分析が求める作業を終えましたし、(S2を2つの部分に分離することによって)物理的矛盾を解決しました。物理的矛盾がなくなれば発明の課題もないのですから問題は解決されたことになります。上の図のAが浮き、Bが石でAとBとの間は例えば釣り糸で結ばれているとすれば直角三角形ABCが確定すれば川の深さACを得ることができます。つまり:

  • AC = (AB2 - BC2) の平方根

しかし、ここでは1つの方程式にACとBCという2つの未知数がありますから、方程式をもう1つ作って連立方程式にする必要があります。

このケースで連立方程式を作るアプローチは次の3つに限られます:

図2
(図2)
図3
(図3)
図4
(図4)

図2のアプローチからは何ら新しいものが得られません。図4は私たちの観点とは逆に海底に立って川の深さを測る際に役に立つアプローチです。私たちに役立ってくれるのは図3のアプローチです。(2つの浮きAとA′とを釣り糸で錘Bに結びつけるわけですから、ABとA′Bとは2本の釣り糸の長さということになり、)私たちはあらかじめABとA′Bとの長さを知っているわけです。したがって、ACの長さは簡単に計算することができます。この「装置」のコストは取るに足らない額ですから、いくつも作っておけば一回の飛行で複数の箇所の深さを測ることができます。(発明者証No.180815)

2015年8月のオープンタスク (1) : フリーザーバッグ

フリーザーバッグはごく単純な構造をしています。作り方を検討するために構造を調べましょう。TRIZ流に表現すると、フリーザーバッグを効率的に作るために役立つ「構造の資源」を探すことになります。

  • 構造の観察:
    • 主な部分はプラスチックのフィルムを折りたたんだ正方形あるいは長方形の袋となっています。四角の1つの辺だけが開いていて袋の口になっています。袋の大きさは口の幅が数センチから数十センチまで様々です。
    • 口の部分の両面のフィルムの上に、やや複雑な形状をしたテープ状の部分が袋の口と平行する方向に袋の幅いっぱいに横一線の直線を作っています。このテープもプラスチックでできていて、片方の面のテープにはフィルムの厚さの5–10倍ほど高さに突起状に盛り上がった部分がテープの長さ方向に続いています。他方の面のテープにはその突起がちょうどはまり込む凹型がこれもテープの長さ方向に続いています。両面のテープの突起部と凹部とはお互いにちょうど噛み合うように向かい合っています。
    • 素材のプラスチックが柔軟性を持っているので、テープの外から圧力をかけると袋の口が密閉されます。以下、両面の2つのテープ部分を合わせてシールと呼ぶことにします。
  • 特徴:
    • シール部分以外は(便宜上、シールに直行する方向を縦方向とします)両端を別として縦方向・横方向共に均一です。
    • フリーザーバッグを縦方向に切断した場合両端を除いてどこの切断面も相似形になっています。
    • 製品は1種類(フイルムとシールが同一素材)か2種類(フイルムとシールが別素材)のプラスチックでできています。
  • 考察:
    • 素材がプラスチックですから上下・左右共に両端の部分は直線形の熱した金属工具を押し付けることで作れそうです。
    • 製品が持っている相似形は構造の資源として利用可能です。
    • ヒントにフィルムを作る際には金型が使われると書かれています。
    • 相似形の切断面の形に金型を作ると好都合です。
  • 作り方の案:
    1. 始めは:考えやすくするためにフィルムの部分と、シールとを分けて考えます。
      2つの素材で製品を作ることが必要な場合にはこうなります。
      1. 8工程
        1. フィルム部分の素材として一枚の長いフィルムを作る。
        2. 1をフリーザーバッグ1つの大きさに合わせて必要な長さに切る。
        3. シールの両面に対応した金型を作り押し出して成形してテープ状の素材を作る。
        4. 3を2つ向き合わせ、圧力で組み合わせて一本のテープにする。
        5. 4を製品の幅に合わせて切り取る。
        6. 2を2つに折りたたみ、口となる部分に合わせて間に4を挟む。
        7. 6のシールに接するフィルムを熱して、シールとフィルムとを接着させる。
        8. 7の左右の両端を直線工具で(の余分な部分を切り取ると同時に)密閉する。
      2. 6工程
        Aの改良
        2と5とを省略して6と8とを変化させれば:
        • 6′. 1を連続して順次折りたたみながら口となる部分に合わせて間に4を挟む。
        • 8′. 製品の幅に合わせて7を順次切り離して行く。
      3. 6工程
        別の発想(Aの2と5を省略し、6と8を修正する点はBと同様):
        平らなフィルムを折りたたんで袋にする発想から、初めから相似形の袋を作る発想への切り替え。この方法は、製品の大きさ、フィルムの厚さの調整のしやすさなどの点でBに比べた長所があるといわれます。
        具体的には1.を変化させて:
        • 1′. 円形の隙間を持った金型を使って筒型のフィルムをつくる。
        • 6′′. 1′の一箇所を切り開き、連続して順次折りたたみながら口となる部分に合わせて間に4を挟む。
    2. フィルムとシールとを一括して作るアイデア:
      1種類の素材だけで製品を作って良い場合には、Cをさらに発展させることができます。
      フィルムもシールのテープも長さ方向に相似形をしているわけですから、両方を組み合わせた金型を作ることができるはずです。こうすると3、7を省略し、4と6′′とを一括して行うことができます。
      1. 3工程
        • 1′′. 円形の金型の一部を口の部分と想定し、そこにシールとなる凸凹部分を2つ、間に余裕を残して作り込んでおく。この金型を使って筒型のフィルムをつくる。
        • 6′′′. シールとなる2つの凸凹が噛み合うように1′′を連続して順次折りたたむ。
        • 8′′. 製品の幅に合わせて6′′′を順次切り離して接着し、同時に噛み合ったシールの余裕部分を切り取って口とする。

2015年8月のオープンタスク (2) : パロディーの翻訳

私たちが実生活で出会う問題の難しさの1つは、その問題が具体的に何をすることを求めているのか、どんな課題を解決したら望む結果を得ることができるのかはっきりしないことです。TRIZでそういった場合に用いる簡単なツールに「目標ツリー」というものがあります(『TRIZ 発明問題解決理論 レベル1教科書』6)。このツールを使うとこの問題について次の目標ツリーを作ることができます(目標ツリーは上が根元、下が枝の先の形に作ります):

図1
(図1)

ツリーの一番下のボックス(枠内)が具体的に求められている目標です。ツリーの枝の先端になっているボックスの内容を全て達成すれば、根元の目標を達成できることになります。ここでは、一番下の2つボックスに書かれている目標を達成すれば良いことになります。つまり、不思議の国のアリスの新しいロシア語版の翻訳では「ロシア人にとってイギリスらしい内容を持った」、「一般の読者が知っている作品」のパロディーを織り込むようにするという目標を達成すれば良いことになります。

そうはいっても「ロシア人にとってイギリスらしい内容を持った」、「一般の読者が知っている作品」などという都合の良いものをどこで探したらいいのでしょうか。今度は、TRIZのもう1つのツール「システム・アプローチ」を使って考えてみましょう。

なおここでは、原作が対象とした読者層と、ロシア語訳が対象とする読者層とは別の人々ですので途中で上位システムが変化していることに注意して システム・アプローチを展開する必要があります。

システムの階層レベル 過去 原作の現在 新訳検討中の現在 目標としての未来
上位システム 不思議の国のアリス以前の時代の文学作品群 原作の時代のイギリスの読者が知っていた文学作品群 ロシアの読書人層が知っている作品群
システム 個々の文学作品 不思議の国のアリスの英語の原作 不思議の国のアリスのロシア語版定訳、他 不思議の国のアリスのロシア語版新訳
下位システム パロディーの素材となる断片 原作のパロディー 定訳の中の原作のパロディーの直訳
(表1)

このように分析してみると、自ずから「定訳の中の原作のパロディーの直訳」に目が向います。この定訳は原作の単なるロシア語訳ですので、ロシアの読者にとってはパロディーになっていません。しかし、イギリス文学の定訳としてロシアの多く読者の目に触れています。また、直訳ということからイギリスらしい内容であることが期待されますから、新訳のパロディーの素材になってくれそうです。

ナターリア・ジムーロヴァは定訳では英語の単なる直訳だったパロディー部分を素材としてロシア語のパロディーを作って新訳に入れたと証言しています。ただし、現在のロシアの社会には英米文化の翻訳がジムーロヴァの時代よりはるかに多く流通していますから、パロディーを翻訳する際に利用できる素材の幅も広がっていることと思われます。

2015年9月のオープンタスク (1) : 保険のかからない客先への大口与信

延べ払い期間の5年の間に何が起きるか正確に予想することは不可能です。したがって、この種類の問題には確実と言える正解は存在しません。以下は現実の成功例に取材した考え方です。

1.課題の特定

ここでの課題をTRIZの流儀で整理してみましょう。課題の4つの要件、つまり、状況、問題、目標、制約は下の通りです:

  • 状況=安定した事業を行なっているX国のA社に設備を販売する交渉で5年の延べ払いを受け入れれば商談がB社に極めて有利になる
  • 問題=貿易保険がかけられず与信リスクが大きい
  • 目標=A社に良い担保をだしてもらって与信リスクを小さくし、B社が5年の延べ払いを受け入れられるようにして商談を有利に進める
  • 制約=A社が扱っている天然資源そのものや、採掘権・伐採権などの権利を担保とすることには制度上の制約がある

2.システム・アプローチ

A社に関連するものの中で何が担保となりそうかシステム・アプローチを使って考えてみましょう。

システムの階層レベル 過去 現在 未来(今後5年)
上位システム X国の経済は不安定 不明
システム 過去の業容(安定) A社の事業(安定) 今後の業容(安定していると見込んで与信を検討している)
下位システム
天然資源
設備
事業(下位・下位システム参照)
天然資源
設備
事業(下位・下位システム参照)
天然資源(担保にできない)
設備(劣化や転売されるリスクがある)
事業(下位・下位システム参照)
下位システムの中の「事業」に関する 下位・下位システム 省略
権利
資金の回転
利潤
人(担保として不適切)
権利(制度上の制約があり担保にできない)
資金(手元資金、売掛け金)
利潤
(表1)

3.考察と解決策の例

表1の未来(今後5年)の欄に着目して、今後5年間の担保となってくれそうなものを探してみましょう。

  • X国そのものの経済が不安定ですので、上位システムの中で担保を発見することは難しいでしょう。
  • A社の将来についても完璧な保証を期待することはできませんが、不安定な経済の中で安定した事業を継続してきたA社はこれからも安定的な事業を継続してゆくだろうと見込んで与信を検討しています。
  • 天然資源や、設備、人、A社の権利についてはそれぞれ担保にできない事情があります。
  • A社の売掛け金はいずれかの銀行の口座に入金し、その資金がB社に対する債務の決済に回るはずです。
  • A社は与信を受ける立場ですから、延べ払いの支払い期限ごとにB社に対する債務を優先的に支払うことに反対する理由を持っていません。
  • A社、B社と、A社が売掛け金を受け取る口座のある銀行との間で3者契約を結び、A社が(特定の)売掛け金を受け取る口座を変更してはいけないこと、及び、その口座への入金は優先的にB社への債務支払いに当てられることに合意すれば、A社の事業が安定している限りB社は安心していられることになります。

2015年9月のオープンタスク (2) : タカvs.スズメバチ

ハチクマが使っている「手段」を本当に明らかにするには丁寧な観察や実験が欠かせません。ここで求められているのは観察や実験を行う際に指針となる「仮説」を立てることと言えるでしょう。与えられている知見(と常識)に基づいてどんな仮説が可能か検討してみましょう。

1.ハチクマの観点での課題

ハチクマの立場に立って課題を考えてみましょう。

  • 状況=ツマアカスズメバチは高い木の上に長さ1m以上の巣を作り、その幼虫や蛹を食べることができる
  • 問題=ツマアカスズメバチは強い顎で噛んだり、毒を持った針で刺したりして攻撃してくる。彼らの巣は頑丈だ
  • 目標=ツマアカスズメバチの攻撃から被害を最小にして、頑丈な巣の中にある幼虫や蛹を食べる
  • 制約=自分の身体(比較的小型の猛禽類)の特性、および、ツマアカスズメバチの巣がある高い木の上という環境で利用できる自然以外の資源を使うことはできない

2.原因結果分析

ハチクマが目標を達成する状況について原因結果分析を行います。

(1)はじめに、1の「目標」の項に着目して、幼虫や蛹を食べる目標を達成するための有益機能(TRIZでは目標の達成に寄与する作用、動作、機能、条件などを一括して「有益機能」と表現します)に限定した原因結果連鎖を明らかにしましょう。

図1
(図1)

(2)次に、1の「問題」の項を手がかりにして2の(1)を実現する上での障害(一般化して有害作用とします)を明らかにします。(赤い矢印は阻害する関係を表現しています。なお、常識を使って一部の情報を補いました)

図2
(図2)

つまり、ハチクマは次の有害作用に対策を講じなくてはなりません。

  1. ハチが針で刺す
  2. ハチが顎で噛む
  3. 巣の外壁が頑丈(なのでクチバシや爪が巣の中に届かない)
  4. 巣が高い木の上にあるので有益機能を実現しにくい

3.有害作用を取り除く

TRIZに「不具合の防止または除去のためのチェックリストとオペレータ」というツールがあります。この中に不具合対策の方針として可能な考え方を網羅した次のチェックリストがあります(スヴェトラーナ・ヴィスネポルスキー著、『故障・不具合対策の決め手 I-TRIZによる原因分析・リスク管理』、p.208)。チェックリストにそって、考えられるアプローチを網羅的に検討します:

  1. 危害の源を取り除くまたはその特性を変化させる
  2. 有害作用を変化させる
  3. 有害作用を打ち消す
  4. システムを有害作用から隔離する
  5. 有害作用に対するシステムの耐性を高める
  6. 影響を受ける物体を改造または置き換える
  7. 既に発生したまたは避けることのできない有害な結果を最小化する

4.資源の探索

3のアプローチを具体化する上で利用可能な資源を探さなくてはなりません。次の中から資源を探します。(詳細は省略します)

  • ハチクマの
    体型、羽、皮膚、爪、分泌物、その他
  • 環境
    高度、気温、風、枝、木の葉、他のハチクマを含む周囲の他の生物、その他
  • ハチの
    巣、身体、分泌物、習慣、その他

5.解答例

  • 硬質の羽毛が全身に鱗のように厚く密生しているので皮膚をかじることが難しいし毒針も刺さりにくい
  • ハチの攻撃性を奪うフェロモン、もしくは嫌がる臭いを身体から出している
  • 数週間にもわたって、時には複数のハチクマが連携してしつこく巣に波状攻撃を仕掛けることで、ハチに巣の防衛を諦めさせ、放棄して別の場所に移るように仕向けている
  • スズメバチの巣に向けて勢いをつけて飛びかかって巣の外壁に爪で穴を開ける
  • ハチの巣がある枝や、巣そのものに足をかけて身体を安定させる
  • ススメバチの毒液が身体についていると他のスズメバチが攻撃をあきらめる

2015年10月のオープンタスク (1) : 歴史的建造物

この問題についてアルトシューラは次のように解説しています。

「TRIZを学び始めたばかりのセミナーの参加者には、この問題がなかなか難問とみられます。よく出てくる解答は建物の屋根の上に鏡を取り付ける複雑な仕組みです。しかし、問題の塔の近くの建物の屋根に鏡を取り付けた場合、その建物自体が沈下している可能性を否定できません。続いて、塔や岩山の上に何かを乗せて高さをかさ上げするといったアイデアが次々に提案されます。これに対して、例えば30メートルとか50メートルとかの高さで剛性の高い構造物を建てることの難しさを指摘すると、次に出てくるのは強行策です。岩山と塔の間の建物に一時的に穴を開けて間を見通せるようにしたらいいじゃあないかというわけです。人工衛星を利用して宇宙から測定するアイデアもしばしば提案されます。

こんなに簡単な問題がなぜ難しく思われてしまうのでしょうか。利用すべき物理現象に行きつくことができない理由はどこにあるのでしょうか。

まず、問題の分析が浅すぎます。問題状況の説明にあるのは単なる管理的矛盾(何が求められるかわかっているものの、それを実現する方法が提案されていない状況)です。管理的矛盾は解決策に導く力(解法)を持っていません。管理的矛盾と問題を解決に導く物理現象との間の断絶が大きすぎるのです。この断絶の幅を狭めるには、管理的矛盾をまず技術的矛盾にそして物理的矛盾へと掘り下げて、問題を物理的課題(理想的な結果の公式=IFR2)の形に捉えなおし、それに基づいて「小さい人」モデルを作る必要があります。この問題の「小さい人」モデルは次のようになります:

岩山と塔との間を一つに結びつける「小さい人」のリンクを作って、塔が沈下してもしなくても、そのリンクの一番最初の小さい人と、最後の小さい人とは同じ高さに立っている。

ここまでくれば物理学の初歩を思い出して、サイフォンの原理を利用することに思い当たるはずです。岩山と塔との間をホースで繋いで中に水を入れ、水の水準の変化を観測します。塔の側のホースの中の水準が変って以前より高くなったとすれば、塔が沈下したことになります。」

2015年10月のオープンタスク (2) : 地球の大きさ

TRIZを使った問題解決の基本は、問題の背景にある科学的な関係を浮き彫りにして、問題を解くために利用できる原理を発見することです。この問題はその基本形にそって考えることの大切さを理解する問題です。

現代の知見と技術とを使うと、地球の大きさは様々なデータの関数として表現できるはずです。問題の背景にある科学的な関係もその関数の数だけあり、地球の大きさを算出する方法も幾多あることになります。しかし、古代ギリシアの時代には複雑な装置を使って様々なデータを得ることはできませんでしたから、地球の大きさを計算する際に利用できたのは幾何学の原理のみと思われます。

エジプトのナイル川はほぼ南北まっすぐに流れていて、流域に多数の都市があるので(地球が丸いという認識を持っていた人にとっては)幾何学の原理を利用して地球の大きさを計算する上で好都合な条件が揃っていました。アスワンという都市は緯度が約24度ほぼ北回帰線上にあります。このため、夏至の日の正午には太陽が頭の真上にくることになります。実際、古代のアスワン(当時はシエネと呼ばれていたそうです)では夏至の日の正午になると井戸の底にまで太陽の光が届いたといいます。この事実に着眼したアレクサンドリアの学者エラトステネスが夏至の正午にアレクサンドリアで太陽の高さ(南中高度)を測定したところ82.8度でした。太陽は極めて遠くにあるため、地球に降り注ぐ太陽光は平行の光線になっていると仮定すれば、アレキサンドリアでの南中高度82.8度とアスワンでの90度との差7.2度は地球の中心から見た見たアレキサンドリアとアスワンとの間の角度(緯度の差)ということになります。上に述べたようにナイル川はほぼ南北に流れているのでアレキサンドリアとアスワンとの経度の違いは大きくありません(約3度)。エラトステネスはアレキサンドリアとアスワンとの間を旅人が移動するのに要する日程から両都市間の距離を925kmと見込みました。エラトステネスは地球の全周を

[両都市間の距離] × [地球全周の角度] ÷ [アレクサンドリアとアスワンとの間の角度] =925km × 360度 ÷ 7.2度 = 46500km

と計算しました。

他の方法:

お互いに対岸の岸辺は見えないで高い建物の屋根や低い丘がやっと見えるような湾を囲む2箇所の土地を探します。湾の一方の岸に海面上1メートル前後の高さの(海面上の高さを測りやすい)位置に観測点を設けます。対岸に高い櫓を立てて、櫓に沿って物差しを立てます。晴れた夜間に櫓の下の地上に火を入れたランタンをおいて、物差しに沿ってゆっくりと引き上げてゆきます。観測点の側ではランタンの火が見えるまで観測を続け見えた瞬間に光で対岸に合図します。櫓の側では合図があった時のランタンの(海面上の)高さを記録します。合図の瞬間の観測点の目の高さとランタンの高さとの差=xを算出します。あとは観測点と櫓との間の直線距離=yがわかれば地球の大きさを算出することができます。概略ですが、地球の半径はxとyとの次の関数で表現できます。

地球の半径 = y × y ÷ x

2015年11月のオープンタスク (1) : 家畜になった動物とならなかった動物

1.目標ツリー

はじめに目標ツリーを使って考え方を整理しましょう。目標は問題の趣旨に沿って「大型哺乳類を家畜化する」としましょう。なおここで、「家畜化する」とは問題の注1に書かれている意味で野生動物から家畜をつくることとします。そこで注1を参考にして下の目標ツリーを作りました。

図1
(図1)

なお、上の3つの下位目標を選んだ理由は次の通りです:

  • 野生動物を飼育することと、繁殖させることとはそれぞれ個別に行うことも可能です。
  • 動物園では野生動物を飼育し、しばしば繁殖させていますが、人の生活に役立つように変化させることはしません。
  • 逆に、野生のままの動物の行動や習慣を人の生活に役立つように変化させることも考えられないわけではありません。(例えば、野生動物が生活域を変化させるように仕向ける)

2.原因結果分析

上の3つの小目標を達成するにはどんなことを考える必要があるのか、阻害要因も含めて検討するために簡単な原因結果分析をして見ましょう:

(1)まず「飼育する」ことについて考えると、まず、図2の黒いボックスに示した機能連鎖を実現することが求められます。次に、これに関連して赤いボックスで示した阻害要因が考えられます。こうした阻害要因が少ない、次のような特性を持った動物は家畜にしやすいと考えられます。

  1. 人を攻撃しない
  2. 過度に人を恐れない
  3. 指示に従わせやすい
  4. 餌が入手しやすい
  5. 特殊な飼育空間を必要としない
図2
(図2)

(2)「飼育する」機能連鎖が成り立っていることを想定した上で「繁殖させる」ことに特有の問題を考えると、図3の赤いボックスの阻害要因が考えられます。

そこで、これらを一括りにした次の特性を追加しましょう:

  1. 繁殖能力が高い
図3
(図3)

(3)「人の生活の役に立つように変化させる」という小目標の内、個体を変化させることについてはすでに挙げた「c. 指示に従わせやすい」ことによって達成されると思いますが、種として変化させることについては「f. 繁殖能力が高い」ことに関連して次の特徴を加える必要があると思われます:

  1. 交尾相手の選り好みが少ない

3.以上のまとめ

家畜化が可能な動物は次の特徴をもっている必要があると思われます。

  1. 人を攻撃しない
  2. 過度に人を恐れない
  3. 指示に従わせやすい
  4. 餌が入手しやすい
  5. 特殊な飼育空間を必要としない
  6. 繁殖能力が高い
  7. 交尾相手の選り好みが少ない

4.ジャレド・ダイアモンドが挙げている特徴

この問題を取材した著作を書いた本人は「家畜にすることができた野生動物の6つの特徴」として次をリストアップしています。(このリストの趣旨を考えると、3のリストはほぼ妥当だと思うのですがいかがでしょうか)

  1. 餌について問題がないこと
  2. 成長に時間がかかりすぎないこと
  3. 飼育状態で繁殖させることが難しくないこと
  4. 気性が荒くないこと
  5. パニック状態になりにくいこと
  6. 序列性のある集団を形成すること(序列が上位の個体に従うという習慣を持っている)

2015年11月のオープンタスク (2) : 伊能忠敬の工夫

1.矛盾

この問題は道線法の信頼性についての典型的な物理的矛盾の(なんらかの特性について、一つのニーズを満たすためにはある特性値が求められ、別のニーズを満たすためにはそれと逆の特性値が求められるときに、二つのニーズをどちらも満足させなくてはならない)状況と言えます。これを定式に則って記述すると次のようになります:

  • 正確な測量を行うためには道線法を信頼してはいけない
  • 測量を完成させるためには道線法を信頼しなくてはいけない

物理的矛盾を解決するには次の4つのアプローチ(まとめて「分離の原則」と名付けられています)のいずれかを使います。

  1. 状況を空間の観点から2つに分けて考える
  2. 状況を時間の観点から2つに分けて考える
  3. 状況を構造の観点から2つに分けて考える(典型的なケースでは、構造全体をみた場合と、その構造の中の部分をみた場合とに分けて考える)
  4. それ以外の条件(基準あるいは尺度といった方がわかりやすいかもしれません。例えば温度や色の違い)について2つのケースに分けて考える

与えられた問題で伊能忠敬は測定の「目的とする場所の選び方」を工夫したとされています。これを手がかりにして4つのアプローチのどれが役に立ってくれるか考えて見ましょう。

  1. 場所の選び方ですから、これが該当しそうですが2つに分ける切り口が見当たりません。
  2. 時間で2つに分けるアプローチとは、ここでは例えば昼間と夜間とに分ける、晴れた日と天気の悪い日ということになるでしょうが、良いアイデアが見つかりません。
  3. 構造の観点では、例えば、測量という作業の全体と測量作業の個別要素とに分けるといったことになりますが、ここでは、測量作業の個別要素についての情報が得られていません。次に、一回の測量作業を部分とした場合の全体とは何でしょうか。複数の測量をひとまとめにした測量プロジェクトがそれと言えるでしょう。それではひとまとまりの測量プロジェクトの結果と、一回の測量とのあいだで測量の信頼性に違いが出るのはどんな場合でしょうか?
  4. 測量する場所を何らかの基準で2つに分けるとしたら、どんな基準が役に立つでしょうか。例えば、位置が確定していない場所の測量と、天文観測やそのほかの方法によって位置が確定されている基準点の測量という切り口で2つに分けることが考えられます。しかし、位置が確定している場所をいまさら測定することにどんな意味があるでしょうか。基準点から逆算して、測量している点の位置を知ることができそうです。

この考察のcとdを組み合わせて、位置が確定されている基準点から出発して、複数回の測量を重ねた上で出発点に戻るひとまとめの測量を行うアイデアが得られます。この一連の測量については次のことが言えます:

  • 当時の測量技術に限界があったのですから個々の測量の正確さについては完全な信頼性は期待できません
  • ひとまとめの測量全体については、位置の分かっている場所を測量することになりますから、測量全体の最終結果の信頼性は初めから保証されています。
結論:

天文観測など複数の方法を使った測量によって位置が確定している基準点から出発して道線法による測量を複数回重ねて元の基準点に戻る一連の測量を行います。最終的に基準点の位置データが得られるように途中の測量データを修正するようにします。

2.理想

測量そのものが測量の信頼性を保証してくれるのが理想です。1の結論では、まさに、一連の測量作業そのものが個々の測量の信頼性を保証してくれています。

ですから、この結論は理想の観点からみても妥当だと言えます。

3.オペレータ

経験的な知見に基づいて作られたTRIZツールの中に「信頼性を高くしたい」時に使うオペレータがあります。このオペレータは次の4つのアプローチからいずれかを選ぶことを推奨しています:

  1. システムの要素の信頼性を高める(初めから全体の信頼性を高くすることを狙わないで、個々の要素に着目して信頼性を高くするように考える)
  2. システムに冗長性を持たせる(システムの中に同じ機能をもった下位システムを複数組み込む)
  3. システムの中の信頼性の低い要素を簡単に交換できるようにする
  4. システムの中に使い捨てできる要素を組み込む

この問題の説明文で触れられている天文観測や遠くの山の観測はbの冗長性の好例です。また、出発点から測量を積み重ねてゆく測量と、基準点からさかのぼって測量の精度を修正する逆戻りの測量を組み合わせた1の結論も広い意味では測量に冗長性を持たせていると言えます。

2015年12月のオープンタスク (1) : 誤解

1.課題の整理

TRIZマスターの一人イーゴリ・ヴィケンチエフはTRIZの学習の第一歩は日常的な型にはまった思考から脱却することだとしています。(I.L.ヴィケンチエフ「TRIZ教育のステップと教育上のテクニック」、)解答を探すことに先立って自分自身の思い込みを取り除くために、部外者の視点で課題を眺めることから始めましょう。

  • 状況:心理学の知見として、前向きな行動に報酬を与えることは効果を上げるが失敗を罰することはそうでないことが確認されている。しかし、その説明を受けた飛行教官は「見事な操縦をした訓練生を褒めるとと次回は決まって悪くなり、下手な操縦をした訓練生を怒鳴りつけるとおしなべて次回は操縦が改善される」というの経験をしている
  • 問題:飛行教官の経験は上記の心理学の知見を否定しているように思われる
  • 目標:飛行教官の経験が心理学の知見を否定していると考えるのは誤解であることを明らかにする
  • 制約:心理学の知見は正しいし、飛行教官の経験を疑うことはできない

2.原因結果分析

引用されている「飛行教官の経験」の内容は常識的でごく当たり前のように思われるますが、課題の焦点はそこにあると思われますから、改めて事実関係を分析してみましょう。

  1. 訓練生は何回も操縦の訓練をしていると考えられる。
  2. 教官は訓練のできばえについて「見事」、「悪い」、「下手」、「改善された」などと評価をしているのでできばえにバラツキがあることが推定される。バラツキは訓練生が意図して生じているのではなく、平均的な訓練生の操縦のバラツキが良い方向に極端に偏った時に「見事」と評価され、悪い極端に偏った時に「下手」と評価されていると考えて良いだろう。
    元来の能力が特に高い訓練生および特に低い訓練生についてもそれぞれの幅でできばえにバラツキがあるだろうし、それに対する飛行教官の感じ方や評価の仕方についても平均的な訓練生の場合と同様の傾向があると考えるべきだろう。
  3. バラツキの一方の極端が2度続けて生じることは確率的に小さい。平均的な訓練生が「見事」な操縦や、「下手」な操縦を2回続けてする確率は小さい。
  4. 逆に「見事」な操縦の次の回には、それより「悪い」操縦をする確率が大きい。同じく、「下手」な操縦の次の回は、それよりは「改善された」操縦をする確率が大きい。
  5. 蛇足:「見事」な操縦の次の回に再び「見事」な操縦をしても印象が薄い、「下手」な操縦の次の回に再び「下手」な操縦をしても印象が薄い、という事情も考えられる。

以上を図式で表現すると次のようになります。

図

3.解答例

飛行教官は訓練での操縦のできばえのバラツキによって生じている一回ごとの変化を、訓練の成果による変化と誤解していると思われます。

2015年12月のオープンタスク (2) : パスワード

この問題はTRIZを教える上で格好の教材といえます。

なによりもまず、日常生活で出会う物理的矛盾の好例ですし、「条件で分離」というアプローチの説明にも好適です。しかも、多くの人が問題の難しさを実感し、少なからず考えたことのある人がいることも想定されるので説明上好都合です。

1.物理的矛盾

早速、問題文の状況を物理的矛盾の定式に合わせて記述しましょう。

  • 悪用されるのを避けるためには、パスワードは記憶したり推測することが難しいものでなくてはならない
  • 必要な時に思い出すためには、パスワードは記憶したり推測することが易しいものでなくてはならない

2.分離の原則(条件で分離)

物理的矛盾に出会ったら「分離の原則」を使って考えるというのがTRIZの定石です。分離の原則は矛盾のある状況を空間、時間、構造、条件という四つの切り口のどれかを使って二つの状態に分けて、一つの状態で一つ目のニーズを満足し、二つ目の状態で二つ目のニーズを満足させるアプローチで考えるツールです。四つの切り口のうち「条件で分離する」切り口についてはTRIZの初学者に分かりやすい例が多くありません。ところで、

パスワードは:

  • 設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」
  • それ以外の人にとっては「記憶したり推測することが難しい」

ものでなくてはなりません。空間、時間、構造ではなくどの人にとっては? という「条件」で分離することを求めていますから、条件で分離する問題の好例といえます。

解答を得る上での眼目は、記憶したり推測することに関して、「設定した人」と「それ以外の人」という条件で2つの状態分ける方法を発見することにあるといえます。

3.「パスワードを思い出せない」状況の分析

人が自分で設定したパスワードを絶対に忘れることがないならば、新しいパスワードを設定する度に他の人にとって極めて推測しにくい複雑なパスワードを作って覚えればよいことになります。ですから、問題は自分で設定したパスワードをあとで思い出せないことにあります。そこで、解答を考える前に「パスワードを思い出せない」ということの具体的な内容を整理しておきましょう。

  1. 何を忘れてしまうのか
    • パスワードを設定した事情(あることについてパスワードが必要なこと、パスワードの目的を含む)
    • パスワードを設定したこと
    • パスワードの内容
    • パスワードを思い出す手がかり
  2. なぜ忘れるのか
    • パスワードが必要なケースが多い
    • 他の人に推測されないように一人で複数のパスワードを使う
    • 他の人に推測される手がかりのないパスワードを選ぶ
    • パスワードによって内容に制約がある(数字のみ4けた、アルファベット数字混在6桁以上、etc.)
    • その場になってパスワードの設定を求められることがあるため、良いパスワードを考える余裕がない(思い出す手がかりの準備がない状態でパスワードを設定する)
    • パスワードを設定した時と、パスワードを使う時との間に時間のへだたりが生じて、様々な事情が変化している場合がある(使う人の境遇、住所、パスワードを設定させた組織の名称を含む状況)
  3. 上記1、2の事情があっても、パスワードを思い出す必要がある時に利用できる情報
    • パスワードの目的(パスワードを使おうとしている状況を含む)
    • パスワードを使うことを求めているサービス
    • パスワードに関連するその他の物(商品名、カードなど)
    • パスワードを使おうとしている本人に関すること
    • パスワードを使おうとしている本人の知識の中で時間が経っても変わらない部分

4.「記憶しやすく、かつ、安全性の高いパスワード」づくりの方針

これまでの検討を踏まえると、求められるのは次のことです:

3の3の資源を使って、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」がそれ以外の人にとっては「記憶したり推測することが難しい」パスワードを作る方法を発見する。

5.理想

まず、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」ことを保証してくれる資源を探しましょう。

TRIZの基本に戻りTRIZツール「理想」を使って、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」ことを保証してくれる資源を探すアプローチを探します:

理想:パスワードを思い出す必要そのものがパスワードを思い出させてくれる

別の表現

理想:パスワードを思い出せない自分そのものがパスワードを思い出させてくれる

解答例のタネ:
  1. パスワードを思い出す必要が出てきた時に嫌でも思い出すことを作っておく
  2. パスワードを求めるサービスに関係する何かをパスワードに含める
  3. 自分がパスワードを思い出せない状況に関連する何かをパスワードに含める

6.解答例

パスワードを忘れた時の自分のために、必ず思い出せる例えば次のようなルールを作っておきます。

1)自分が決して忘れない数字のパスワードを一つ選んでおく(4桁〜6桁)

  • 忘れられない嬉しい思い出のある年、月日、などから
  • 自分に限らず、ひどい忘れ物に関連する数字
  • 自分に何らかの意味のある数字

例:
15791(広島カープリーグ初優勝の年の逆、初めの1は初優勝の意味)
1496(カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」からイシグロの語呂合わせ)

2)パスワードが求められるサービス名などから文字を抜き出すルールを決めておく(2文字、3文字程度が覚えやすい)

例:
tとj(TRIZ塾の頭文字)
UとKとU(TRIZ塾の最後の3文字)

3)数字と文字とを組み合わせるルールを決めておく

例:
1579tj1
UKU1496

4)文字が限られる場合のルールを決めておく

例:
1579(数字のみ4文字の場合)
UKU1496U(8文字以上が求められる場合)

7.参考書で紹介されている解答例

出題の際に参考にさせていただいた武山知裕さんの『個人情報 そのやり方では守れません』という本では、簡単にまとめると次のような方法が紹介されています。

  • 基本となるパスワードを作る
    (いくつもパスワードを覚えるのは大変ですが、一つならば覚えられるだろう、という考えです)
  • 利用するサービス名をローマ字もしくは数字に変換するルールを決める
    (例えば「AKB」式のやり方や、ローマ字で書いた際の文字数、終わりの三字、などです)
  • 基本パスワードにサービス名を変換した文字/数字を付け加えるルールを決める
    (最もシンプルな「末尾に追加する」や「三文字目と四文字目の間に挿入する」などです)

これで、基本パスワード一つとルールを二つ覚えるだけで、サービスごとに別々のパスワードが使えるようになる、というわけです。

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